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水曜日の恋人はいじわる⑬ ガードレールに座って寝るとケツが痛い

「後で着てやるから、楽しみにしてろ!」 結構な早朝、雪解けが始まっている自宅前の路上で言った。 高校2年で底辺高校ではあるが一応は生徒会長の俺は結城友也、男が好きというワケでもないが男と付き合っている。 水曜日限定で付き合っている相手が女好きで男女問わずにモテる生徒会書記の三田遼太だ、八カ月前から付き合っていて一通りのコトはしている。 一通りのコトをしているなら別にデートなどしなくても良いはずなのに、初々しくも映画デートを水曜日でもない日曜日にするコトになった。 その映画がハリウッド系の一般大衆受けを狙った派手な娯楽映画で全くと言って俺には興味の無いモノ、しかもシリーズモノの『4』だ、無論『1』『2』『3』など見ていない、なんとかスマホで予備知識は仕入れたからソコソコ楽しめる状態にはなっている。 初の映画デートなのに『4』から見るか?普通!、なのだが別の問題が追加されていて映画の内容など些細なコトになっている。 JKコスプレで来い!! そんなに背は高くはないが男の俺に生き恥を晒せという要望、デートに誘われた金曜日から土曜日の深夜まで悩みに悩み抜いた、悩みすぎて余り寝ていないのに日曜日の朝になった。 ピピピピ…ピピピピ… 「う…あぁぁっ!!」 大音量でアラーム設定した目覚まし音がイヤフォンから耳に流れ込んで来て飛び起きた。 時刻は午前4時30分、通常の俺では考えられないほどの早起きだ、眠くてクラクラするのを我慢して身支度を整えた。 多分、きっとだが遼太は俺に逃げられないように家の前で待機しているはず、何回か同じコトがあったから俺も学習している、待たせるのも悪いから苦手な早起きをしているだけだ。 スマホの中の時刻は午前五時になろうとしている、家族がまだ眠っているから静かにドアを開けて外に出た。 雪が解け始めた三月の早朝、陽も昇りきっていないから少し暗い、「さむ…」と呟きながら自宅前の歩道に出ると誰もいない、待ち合わせは俺の自宅からの最寄り駅で午前8時30分を指定されている。 断じて待ち合わせ場所は午前五時に俺の自宅前ではない、ただ、過去の経験からすると、遼太は歩道と車道を遮るカードレールに腰掛けて俺を待っているはずなのだが…。 (居ないじゃん…) 午前五時、朝早く田舎なコトもあって歩いている人も居ないし、自動車も走っていない、野良猫が急いで道路を渡っている。 学校にも着て行っている黒色のダッフルコートのフードのポケットに手を突っ込みガードレールへ腰かけた。 遼太の家がある方角の道路に顔を向けたが、解けかけた雪が残っているだけで人影は見えない、明るくなっていく空、居るはずの遼太が居ない。 そういえば俺の家から遼太の家までは自転車でも30分はかかる、どうやって着ていたのだろう? 歩いて来てたのかな?、お母さんに途中まで自動車で送ってもらったとか? それより、よく考えれば俺の自宅前は待ち合わせ場所じゃない、時刻も早いし早すぎる、付き合って八ヶ月も経っているのに最初の頃の様に遼太が待っているはずと考えたのは俺の自惚れか。 (ねむ…) ガードレールに腰掛け寒さから身を丸めていたら温かくなって来て眠くなってきた、待ってても来ないかもしれないのに、今日の為にワザワザ購入したチェック柄のマフラー首や頬を暖めて来て増々眠い。 意識が遠くなる、眠い、、、 路上なのにブラックアウトだ…。 ガサガサ…、ビリッ…、プシュ… 食べ物の匂いと咀嚼音が至近距離で聞こえ目が覚めた、音の方に目を向けると大口を開けて肉まんを齧っている遼太が隣に居る。 驚く俺と目が合うと垂れた目を細めて「おはよう」と言ってきた、固いガードレールに腰掛けて寝ていたからケツが異様に痛い、スマホの時刻を見ると午前六時を過ぎている。 一時間くらい寝てた? 時刻を見て固まる俺に「飲むか?」と頬に温かい缶コーヒーをグイグイ押し付けて来る遼太に聞いた。 「…いつ着た?、今か?」 「結構前かな?、起きるの待ってたら腹減ったからコンビニ行ってきた。」 「起こせよ、バカ。」 「俺を待ってて、寝ちゃってた?」 からかう様に甘く聞いて来るから腹が立つ、「待ってた」など言いたくない、俺は「愛される」側で「待つ」という行為は「愛する」側がする行為だ、遼太が迎えに来てくれて嬉しいのに不機嫌になる。 「待ってない、遼太が遅いだけだ。」 「あは、ところでJKの服着てないじゃん、やっぱダメか、楽しみにしてたんだぞ俺は。」 不躾に俺のコートをつまみスカートを履いてない様子に残念そうな顔をする遼太、自宅から堂々とJKコスプレで外出するDKがいるか?、バカだなと思いながらもバカすぎて可愛い、睡眠不足で俺もいかれている? 冷めかけて温い缶コーヒーを喉に流し込み遼太に言った。 「後で着てやるから、楽しみにしてろ!」 雪解けが始まっている自宅前の路上、ガードレールに腰掛けるデカいDKと小さいDK、結構な早朝だが俺のテンションはかなり高い。 そんなワケでDKがJKコスプレをして映画デートをすることになった。

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