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水曜日の恋人はいじわる⑱ 幸せは何気ない所に転がっている
「遅れるっ!!」
慌てて家を飛び出した俺、家を出てすぐに見知った顔が待っていた。
日曜日に男なのに男とJKコスプレしての映画デート、付き合っている男の親にJKコスプレのまま挨拶、何故か行きも帰りもトイレでセックスするとかバカな行為をした俺、只でさえ体力が無いのに疲れないワケが無い、心労と肉体疲労で月曜日の今日は目が覚めなかった。
学校に遅刻しないで行けるギリギリの時間、「遅れるっ!!」とボヤきながら慌てて家を出たら見知った顔が待っていた。
俺の家の前のガードレールに腰掛けて朝の光をキラキラと浴びているのは俺が付き合っている男の遼太、俺を見ると垂れた目を細めて「おはよ!、遅いなっ!」と声を掛けてきた、予期せぬ待ち人に戸惑う俺、動揺のままに駆け寄った。
「あ、何でココに?、何かあったか今日?、何か行事とかあったか!」
「何も無いぞ、一緒に学校行こうと思って待ってた、雪も解けてるし自転車で行こうぜ。」
「じ…?、自転車は整備してないから乗れない、せっかくだけど俺はバスで行く、遅れるからゴメン!!」
始業に間に合うバスの時間が迫っている、返事もソコソコに駆け出そうとしたら肩を掴まれて「二人乗りで行こう!」と遼太がニッコリして言う、男同士で自転車二人乗りはおかしくないか?、そもそも自転車の二人乗りは禁止されているし、「いい、バスで行く!」と言う俺の横をバスが通り過ぎて行った。
リアキャリアに跨り「なんで男同士で二人乗り…」とブツブツ言う俺に自転車を漕ぐ遼太が話しかけてきた。
「少し前に家から出てきたのって、友也の弟か?」
「そう、中学生。」
「あんまし似てないのな、誰かと思った。」
「弟は母親似で、俺は父親似なんだ。」
「お父さんぽい人は出て来なかったけどな。」
「いつから待ってたんだよ?、俺の父親は家庭不和で別居中、でも近所には住んでいる、似てるから俺の未来の姿が見れるよ。」
「かわいい?、かわいいオジサンなのか?」
「普通のオッサンだよ!、それより遼太は何で待っているんだよ。」
「昨日帰ってからメール送っても返事なかったからさ、ちょっと心配してた。」
メール?、疲れて爆睡してたからスマホなんて全然見ていない、しかし遼太はマメな男だ、八股が成立するのも頷ける、俺が加わると九股か?、どういうローテーションを組んでいるのだろう?、通りで俺が頑張っても全然イかない体質になるはずだ、まあ、モテる遼太が好きだから全然構わないんだけど。
道路に残る雪で自転車のタイヤが滑りバランスが崩れかけて思わず遼太の腰にしがみ付いた、「危ないから、掴まっておけよ」と言って来るけど、男が男の腹に腕を巻き付けていたら変だろう?、腹なんか…って、八股している女の子達に刺されるとか刺されないとか言われていたことを思い出した。
「遼太さ、体には気を付けろよ。」
「え?、めずらしいな心配してくれてるのか、俺は病気にはならないけどな。」
「病気じゃなくって、刺されるなってコト、防刃ベストとかプレゼントしようか。」
「ぼうじん?、何それ?」
「刃物を通さないベストのコトだ、刺されても大丈夫なようにさ。」
「何で俺が刺されるんだ?」
「八股してるんだろ、女の子に刺されるかとか?、ホントに気を付けろよ。」
「いや…、えっ?、うん、がんばる…。」
頑張りで刺されるのを防ぐ事が出来るのだろうか?、昨日は眠くて防刃対策を考えてあげられなかった、近々に良い提案をまとめてあげようと思っていたところでトンネルに差し掛かった、このトンネルを抜けてすぐの所が俺達か通う高校だ、幸いにも自転車登校しているヤツラには会わなかった、腹に巻き付いたままの腕、トンネルの中を吹く強い風が前髪を巻き上げる、遼太が思い出したように言う。
「あのさ、親父に会ってくれて、ありがとうな。」
「うん、でも変なヤツって思われてないかな?、映画の話をした時に無理に高い声を出そうとして不自然だった気がする…。」
「俺にトモちゃんは、かわいいって言ってたぞ。」
「遼太の家族は背が高いから、小さいヤツは何でも可愛いんじゃないのか?」
「あはは、褒めてるんだけどな!、怒るなよ!」
全く男が男に可愛いって言われて喜ぶかよ?、トンネルを抜けた先は左手に海が広がっている、海面をキラキラと反射する陽の光が眩しい、遼太と話すたわいもない会話、腕の中には遼太が居る、多幸感で胸が詰まる、幸せは何気ない所に転がっている。
ピルルルル…、ピルルルル…
止まる事無く鳴り続けるスマホに目を向けた遼太、自転車を止めて着信に返事をすると、俺に「病院に行かないといけなくなった、自転車は友也が乗って学校行ってくれ。」と言い、自転車を俺に預けると遼太の母親が自動車で迎えに来ると言うトンネル向こうの方へ歩き出した。
次に遼太に会えたのは生徒会代表として弔問に行った時だった。
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