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第4章:First Date

『今日家でれる?』 付き合うことを決めてから 初めての日曜日の朝、 携帯電話に短いメッセージが届いた。 受験生であり、 夏休みでも、週末は塾に通っていた櫻井先輩は 当然俺に構っている暇などないと思っていたので びっくりした。 『もちろんです。』 とウキウキしながら返事をした。 『ちょっと見たい映画があるんだけど、いく?』 『はい!!!』 恥ずかしいくらいの即答だったと思う。 俺のクローゼットにある一番のおしゃれ着で 指定された映画館の前に行くと、 先輩はすでに待っていた。 いつものようなモノトーンコーデ。 かっこいい。 「さすがお坊ちゃんって感じの服だなぁ。」 と、襟付きのシャツを着た俺を見て クスッと笑った。 「チケット買っといたから。」 とひらひらの券を手渡され、 「今日は俺のしたいことだから、おごる。」 と、先手を打たれた。 そんなとこまでかっこいい。 先輩が見たいと言っていた映画は、 ロマンスのかけらもない アメリカの実話を元にした ドラッグディーラーが主役のギャング映画だった。 櫻井先輩はそういうところがあった。 音楽はアメリカのヒップホップが好きだったり、 映画はハリウッドのギャングスター物が好きだったり、 自分と真逆の世界に惹かれるのだろうか。 そして好きな人が好きな物は もちろん俺も興味があるわけで それを共有してもらえるのが何より嬉しかった。 暗闇の中の巨大スクリーンには 俺たちにとって非現実的な出来事が 次々と映し出される。 物騒なスラム街、激しい銃戦、生々しいセックス、 哀れな麻薬中毒者たち、 なんだか、ザワザワ、ゾクゾク、ドキドキした。 そんな俺の騒めきを感じ取ったように、 先輩は途中、俺の手をゆっくりと取った。 それからは 目の前から得る内容は全く入ってこず、 横にいる櫻井先輩がただただ気になってしょうがなかった。 **** バーからタクシーで1メーターのところに 櫻井先生のマンションはあった。 櫻井先生らしい コンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンションだった。 2階にある男の一人暮らしにしては 大きすぎる2LDKの部屋は、 綺麗に片付いていて、 モノトーンで統一されていた。 日本へ戻って、 あまり片付ける時間がなかったようで、 空けていない段ボールが隅に数箱置いてある。 櫻井先生は、俺を黒いレザーのソファーに座らせ、 「ワインでも飲む?」 そう言ってキッチンへと向かった。 「レッド、ホワイト、・・・ロゼもあるけど?」 「じゃ、赤で・・・。」 櫻井先生は、大きなワイングラス二つにワインを注ぐと、 俺の隣に座った。 間接照明しか付いていない薄暗い部屋で 真っ黒に見える赤ワインを、口にした。 「美味しいですね。」 「これナパの。 去年の夏、ナパのワイナリーに行ってきて、 大量買いしたんだよ。 空輸したら、味変わると思ったけど、案外いけるな。」 「へぇー。そうなんですか。」 「まさか、お前とワインを飲みながら ワインの話するなんて。」 互いの年齢と、 そして離れていた年月を感じた。 「今日泊まってけよ。」 「え。」 「家遠いし、どうせ、明日仕事ないんだろ?」 「でも・・・」 「ゲストルームあるしさ。 久々にゆっくり話したいんだ。 ほら、ボトルも開けたしさ。」 「・・・」 櫻井先生は グラスをコーヒーテーブルに置き 一旦ソファーから離れ、 再びキッチンへ向かった。 まだ半分以上入った赤ワインのボトルを片手に持ち戻ると、 自分のグラスにトポトポと注ぎ込んだ。 そして、それを終えると、 「何もしないからさ?」 と俺を見た。 「・・・え、、、。」 「あ、もしかして期待してた?」 「そんなのあるわけないじゃないですか。」 「それは残念。」 そう言って、 俺の方へボトルを傾け、 まだグラスに残っているワインの上に ゆっくり追加で注いだ。 「んで、どうなの?産婦人科医。やってけそう?」 「あ、はい。やっていくというか、もう義務みたいなものですし。」 「そうだな。 お前は昔から、そう言ってたもんな。」 「覚えてたんですか。」 櫻井先生は意味深そうにうなづき、 赤く色づく唇をワイングラスに近づけた。 「お前は跡継ぎだもんな。」 「はい。」 「俺はそういう面では、楽だったのかな。 東大医学部に入るのは 東大医学部卒の両親からの小さい頃から洗脳で、 俺にはその道しかないと思ってたけど、 専門は、自分で決めたからな。」 「櫻井先生が産婦人科医なんて、意外でした。」 俺はそう言って笑うと、 「そう?」 と不思議そうに俺を見た。 酔っているのか、蕩けるような目だった。 「先生は、脳外科とか、心臓外科の方かと思ってました。」 「・・・」 「・・・」 「俺が産婦人科医になった理由、知りたい?」 「・・・はい。」 櫻井先生はその返事には答えず 口の近くにあった俺のワイングラスを奪い取ると、 勢いよく、唇を重ねた。 唇が離れると 誤魔化すように また強引に、強く、 体当たりのようなキスをされた。 オロオロする俺の肩をそのまま掴み ソファーの上に押し倒した。 「何もしないって・・・言ったじゃ無いですか。」 「嫌がることはしないよ。」 櫻井先生が握る傾いたワイングラスの中に 余っていた僅かな赤い液体が、 脈立つ俺の首筋を通って流れた。 「汚れちゃったな。」 櫻井先生は空のグラスをサイドテーブルに置くと、 片肩が赤で染まった、俺のワイシャツのボタンを 上から順に外して行った。 そして、ぬくい舌で 首元から 露わになった胸にかけて、 ワインを拭き取るように舐め回した。 「先生、、、やめ、、、て、、、くだ、、、さぃ」 「ここ、好きだったよな。」 俺の言葉など聞こえていないように 両胸の中心を集中的に指のひらで撫でた。 そうして硬くなった先端を 親指と人差し指で強く引っ張ったり、押したり、 そんなことを執拗に繰り返した。 すると、上に乗る櫻井先生の胸元を押し付けてるように 俺の下半身は張っていった。 「苦しい?」 櫻井先生は下へずれ 俺のベージュのトラウザーのジッパーを下ろした。 膨れ上がった無地の灰色の下着には 黒い小さな染み出来ていた。 「相変わらず素直な体。」 櫻井先生はしばらくその染みを広げるように 下着の上から膨らみを舐めた。 これ以上は、ダメだと思っていても、 早く、早く、脱がせて欲しい・・・ 心と体は別のようだ。 なんだかもどかしくて うねるように腰を動かすと、 「分かってるって。」 と櫻井先生は俺を見た。 俺の言えない欲求を理解したような眼差しを見ると 全てを委ねてしまいたくなってしまうのだった。

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