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第12章:長谷部

「長谷部先生、聞いてますか?」 「あ、ごめん、なんだっけ?」 「もう、さっきから・・・!! ちゃんと聞いてください。」 「悪い悪い。」 医局で羽田からの進路相談に乗っていたのに ついついガラス越しに見える 患者を処置する弥生先生の姿に 気を取られていた。 あれから一週間経っていたが 忙しい日々が続き 弥生先生とは 特に何の進展もなかった。 「もう私、休憩終わりなんです。 そして今日は18時までなので、 今夜、先生のお仕事終わったら、 ちゃんと相談に乗ってくださいね。」 「え・・・」 「え!じゃないですよ。約束したんですから。」 「・・・はぁー。。。」 「先生は今日21時まででしたっけ? では、駅前にあるBlue Cafeに21時15分頃にお願いしますね。」 「はいはい、1時間だけな。」 「ケチですね。 先生、明日オフじゃないですか。」 「あのさ、俺だって一応予定あるから。」 「へぇ・・・」 「なんだよ、それ。」 「救命救急医って、大体友達いなくなるんで、 こんな救命一本の先生には 友達とか恋人なんていないと思っていました。」 まぁ・・・確かに。 珍しく予定通り21時に終わり、 羽田との待ち合わせ場所のBlue Cafeへ向かった。 ただでさえ仕事の拘束がひどいのに 仕事外でも仕事の話をするなんて 乗り気では無いが、 教育係として相談に乗らないわけにも行かなかった。 Cafeの前に着くと、 窓越しから、 羽田が待っていのが見えた。 いつもスクラブ姿の羽田ばかり見ているせいか 私服で、更になんとなくお洒落しているような感じの 彼女を見るのはある意味新鮮だった。 店の中に入って、 彼女の席の向かい側に座った。 「服似合ってるね。」 「あ、・・・」 職場での男勝りな雰囲気など 封印したように 顔を赤らめ普通に照れる羽田。 分かりやすいところが可愛いくて やっぱり女子なんだな、と思う。 羽田からの相談は 最初から救命救急一本だった俺には 答えることが難しいものばかりだったが、 彼女はキラキラさせた目で 俺のいうことを真剣に聞いていた。 『お前は羽田先生みたいに 自分を慕ってくれる年下女子みたいなのが タイプかと思ってたから。』 先日、櫻井先生に言われたことを思い出した。 確かに羽田みたいに 素直に俺を頼ってくれるような女子は可愛いと思うし、 そういう子とばかり付き合ってきた。 すぐ側にある自分の好みのものが 全く眼中に入ってい無かったんだな、 と思った。 今までの俺なら 自信有り気に 「俺と付き合ってみる?」 なんて 何も深いことを考えずに さらっと聞いていたんだろうな。 羽田からの長々とした相談から やっと抜け出し 家に着いたのは0時前だった。 久々にパソコンを開くと、 前に検索をしていた『北原学』の記事が そのまま開いてあった。 北原学・・・ この人は弥生先生の恋人だったのかも、 記事に載った写真を見て、 ふとそう思った。 この人から醸し出される雰囲気が弥生先生のものと どこか重なって見えた。

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