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鏡花⑶
相模が探してくれた店は、個室のある落ち着いた雰囲気の店だった。和食がメインの店だが、若者向きで自分たちも居心地が良い。
四人でテーブルを囲みあうように座る。アルファが二人とオメガが二人の、合コンなような雰囲気になってしまっていた。注文を終えて、運ばれてきた飲み物を受け取る。相模の乾杯の合図でグラスを合わせた。
「乾杯」
次々に運ばれてくる料理を相模は取り分けて配る。その姿に「僕がやります!」とタイチが身を乗り出して言った。
「いいよ、いいよ。気を使わないで」
「でも、……」
タイチのその困惑した態度は当然と言えば当然だった。アルファが何か他人に尽くすことは珍しい。恋人関係でもない限り稀だ。現にもう一人のアルファである藤咲は何もしない。
「世話を焼くのは好きだし、タイチくんはゆっくりしてて」
手際よく料理を均等に分ける所作から、この言葉が嘘でないように思えた。
(珍しいアルファもいるんだ)
スマートな男性はモテるというが、アルファの場合は多少気遣いがなくても許されてしまう風潮がある。それを気に入らないと感じる一定数はいるが、大半の人にとってそれは疑問の対象にはならない。アルファとして当然の振る舞いなのだ。
「キキ嫌いなものない?」
コクリ、と頷くと相模は皿に取り分けていく。綺麗に盛り付けられた料理はどれもおいしそうだった。「はいどうぞ」と皿を渡され、キキは礼を言ってそれを受け取った。
キキは適当に食事に箸をつけながら、三人の会話を横流しに聞いていた。時折、何か聞かれればそれに答える。話の中心は相模で、タイチは熱心に相模に話しかけていた。
その姿を見ながら、キキはなんてわかりやすいのだろうと呆れた顔をしていた。
(あからさまな態度に見ているこっちが恥ずかしい)
タイチが相模を狙っていることは明らかだった。確か、タイチは今年二十歳になったばかりだった気がする。憧れの人と話せる機会もそうないのか、瞳が輝いて見えた。机の下では、そっとタイチが相模の手に、自身の手を重ねていた。
(お盛んだこと)
相模はといえば、何度もキキを誘ってきた割には、食事の席では無理に話しかけては来なかった。相模の楽しそうな表情を見ながら、キキは変に身構えていた自分が恥ずかしくなった。
誘いを断らなかったのは人数が多い方が間違いも起こらないだろうと踏んだからだ。それにあの噂が本当なら一度食事に行きさえすれば金輪際誘ってこない、そう思っての参加だ。
(だけど、ここまで相手にされないのも拍子抜けというか……)
(どうこうなる気は全くないけど)
キキの気持ちを無視して、鬱陶しく話しかけてくるのは藤咲ばかりだ。
普段何してるの、とか、恋人はいるの、とか。プライベートなことばかり聞かれて、かなりうんざりしていた。そこに付き合いで口をつけたお酒の酔いも回ってきたので、酔いを醒ますのも兼ねて、お手洗いに行くと言って席を立った。
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