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流星⑶

 程なくして商品を受け取り、席に着く。  ホイップにイチゴのソースがたっぷりとかかっていて、美味しそうだった。現場ではあまり写真を撮ることが出来ないので、ああでもないこうでもないと相模は写真を撮り続ける。  キキはそれを待つわけでもなく、楽しそうに見つめながら商品に口をつけていた。 (可愛い……)  思いがけず、そう思いカメラをキキに向ける。 シャッターの音に気付いたキキが、むすっとした顔で相模を睨んだ。 「ちょっと、事務所通してよね」  おどけて言って見せるので、怒ってはいないのだろう。 「美味しい?」 「うん、美味しいよ。早く飲みなよ」 「その前に……」  一緒に写真を撮ろう、と言おうとした時、近くの席から「あのカップルイチャイチャしている」と漏れ聞こえてきた。 「コラ聞こえる」「だってどっちも美形だから目立つんだもん」と筒抜けの会話はキキにも聞こえていたようで、キキは顔を少し赤らめてそっぽを向いてしまった。 「ごめん、こういうの嫌だよね」  別に、とだけキキに返される。 (端から見れば自分たちはカップルに見えるらしい)  前に出掛けた時も、街中で声を掛けられた。雑誌の企画で街中のおしゃれなカップル特集を組むらしく、ぜひ写真を撮らせてくれと頼まれたのだ。もちろん断りはしたのだが、そのあと二人で顔を見合わせて大笑いした。 『本物のモデルなのに! モデルさんみたいって言われた』 『俺も変装してるのに、俳優の相模さんみたいですね、だって』  そんなことを思い出していると、「溶けるよ」とキキに言われた。見ると段々と溶け始めてきている。急いで口に含むと、甘酸っぱいイチゴのフレーバーが広がった。  あまりの酸っぱさに思わず相模は顔をしかめる。 「……酸っぱい」 「君、酸っぱいの苦手だもんね。やっぱりイチゴじゃなくて、『甘ーいイチゴ味』が好きなんじゃない?」  外で会う時、キキは相模のことを君と呼んでいる。相模としては、圭一というファーストネームでもよかったがキキに却下されてしまい、今に至る。相模はキキのことはキキとそのまま読んでいた。業界ではキキも自分に匹敵するくらいに有名なのに、変な感じだった。 「キキって、本名?」  ふと気になった相模は聞いてみることにした。 「……うん」  キキは少し不機嫌そうにそう答えた。どうやら名前の話も地雷のようだ。キキは自分の話したくない話題になると、不機嫌な顔をする。以前のポーカーフェイスに比べると、感情を表してくれるだけ心を許してくれているのかもしれない。  実を言うと、相模はキキのことが気になっていた。前は好奇心だと思っていたが、遊びに出かけるうちにちょっとずつ変化しているように思うのだ。友愛の枠ではとても収まりきらないような。……でも、かつて彼女に向ける感情とも違う気はする。 (それに、キキは俺のことをなんとも思っていない)  誘えばのってくれるが、キキから誘われたことは未だにない。いつも相模から声を掛けていた。好きな相手からに自分ばかりが入れあげるのは少々悲しい。  友情から恋愛に発展するには、ある程度、互いの意思表示が必要だと思う。  それは「好きだ」とかを言葉にするのではなくて、あなたのことを気になっている、ということを態度で示すということだ。  断られないし、楽しそうにしてくれている姿を見ると、嫌われていないとは思う。ただ、相模の第一印象は、そう振り舞わざる負えないことを今は理解してくれているだろうが、最悪だったと思うのだ。  キキはあまり人と馴れ合わない。仕事上のコミュニケーションはちゃんとしてくれるが、休憩中の仲間内のお喋りには参加してこない。特に、同じ場にいるアルファに対しての嫌悪の態度は酷くて、近寄りたくないといった雰囲気だ。 (もしかして、キキが仲良くしてくれるのはベータだから?)  そう思うと嬉しい反面、少し悲しい気持ちになった。  二人で話し込んでいるうちにドリンクも飲み終わり、良い時間になってきた。 午後からは二人で最近できたアウトレットに行く予定だった。大きなフードモールも併設されていて、ランチもそこで食べることになっている。 「そろそろ時間だし、出ようか。車回してくるよ」 「一緒に行くよ」 「近くの駐車場だし、店の前で待ってて」  出る前に尿意を感じた相模は、キキに断りお手洗いに立つ。トイレは使用中で、仕方なく待つことにした。

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