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流星⑹

「佐伯は真白を選ばなかった。高校を卒業するときに、正式に番契約をしたって友達伝いに聞いたよ」 「真白はどうなったの」 「真白はその寂しさに耐えきれなくて、日に日に弱っていった」 (まさか精神異常……?)  オメガはアルファやベータに比べてストレス耐性が著しく低い。色恋沙汰に関してはそれが顕著だと言われている。恋人や番に捨てられ、悲しみの果てに自ら命を絶つ人も少なくない。それまでではなくとも、精神を病んでしまうオメガは多い。本気であればあるほどに。 「それのせいか、なかなか身体がバース性の変化についていけなくて。…………。……おかげで、僕子供産めないんだ」  お腹に手を当てるキキの横顔は悲しみに透き通る。  オメガにとって子供が埋めないということが、社会的にどのような意味を持つことか、相模は知っている。繁殖に特化したオメガ。そのせいで子供を産むための道具だという考えは近代になった今でも色濃く残っている。そんな社会では、キキは生きる価値がない。 「でも、発情期は来ているじゃないか。あの時だって」 「あれは、長年のホルモン治療のおかげ。自力じゃこないし、発情できたって、育てる場所がなければ意味はない」 「……」  相模はなんと言葉を掛ければよいかわからない。でもキキはどこか達観している様子だった。なんとなく、相模は、キキはどんな言葉も望んでいないように感じた。  共感も、同情も、慰めも。きっとキキは望んでいない。 「……、とまあ長くなったけど真白の話はこんな感じかな」  想像以上に壮絶なキキの過去、いや、真白の過去を聞き呆然としていた。しかし、キキの言葉にハッとする。無意識的にキキと真白を同一視してしまっているが、あくまで今相模の目の前にいるのは「キキ」という存在なのだ。本人曰く、自分は真白ではないらしいので、キキにはキキの過去があるのではないだろうか。 「キキの話も聞かせてよ」 「やっぱり、気になる?」 「そりゃ気になるよ、キキは真白じゃないんだろ?」  相模がそういうと、キキは少し考えながら話し始めた。 「何から話そうかな。真白に比べると、自分について話すことはそんなにないし。高校を卒業して、上京してくるときに整形して今の顔になって。その辺りから自分が生まれたような気はするんだけど……。別人だって言いながら、正直自分でも境目は曖昧なんだ」 「整形?」  予想外の単語がサラリと聞こえてきて、思わず聞き返さずにはいられなかった。 「整形って言っても二重くらいしかいじってないんだけどさ。それでもみんな、可愛い、綺麗って言ってくれるよ。きっと元の顔を見たらみんなびっくりするんじゃないかな」  どこか面白そうに言うキキ。相模はキキの顔をまじまじと見た。 (きっとキキは整形前も美人だと思うけど)  目元しかいじっていないというなら、整形前の方が今より美人だったのではないだろうかと相模は思う。二重からはどうしても幼さが感じられる。それは、キキのアンニュイな表情の要素のひとつで魅力的ではあるが、幼さはキキに似合っているのとは少し違うと思う。 「やっぱり整形してるってわかったら、僕のこと紛い物だと思う?」 「そんなこと関係ない。俺は、キキが紛い物だなんて思わないよ」  キキの美しさが作られたものだと知らされても、それでもなお相模は「綺麗」だと思った。初めに抱いた印象のまま。どこまでも美しい。 「キキは綺麗だよ。俺よりずっと」 (嘘をついて生きている自分より、ずっと綺麗だ)  相模がそう言うとキキは途端に悲しそうな顔をした。

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