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流星⑺
「……綺麗なのは見た目だけ。人に言えないような爛れた生活をしてた時期もあった」
若いオメガが一人で生きていくのはとても難しい。若年層の売春は社会問題にもなっている。誰だって望んでしているわけではないが、しないと生きていけないこともある。
「社長に拾ってもらって、キキっていう新しい名前をもらった。今は自分なりに居場所を作って、頑張って生きているつもり。社長の名誉のために言うけど、社長は可愛がってはくれたけど厳しい人で、甘やかしてはくれなかった。真っ当に僕のことを人として扱ってくれたんだ」
「拾われた最初の頃は、社長秘書の見習いとかしてたんだよ」とキキは懐かしそうに言う。
自分より年上なのは明白だったが、キキの表情にはあどけなさが残っている。それが相模には「真白」の片鱗のようなに思えてならない。
「今も真白はキキの中にいるの?」
ずっと疑問だったことを相模は尋ねる。
少し変な言い回しだが、それ以外の訊き方が思いつかない。
それに、過去は真白、今はキキと、他人が簡単に割り切っていいものなのだろうか。
「今もまだいるとは思うんだけど、長い間表に出てきてないからなあ。僕は真白の記憶を引き継いではいるけど、向こうが僕と記憶を共有しているのかはわからない。とりあえず今のこの身体の持ち主が僕っていうのが正しい表現かも」
「表に出てくるって、真白にスイッチみたいに切り替わるってこと?」
「そんな感じかな。自分でもその瞬間はわからないんだけど、以前は真白が勝手に夜に表に出てきて、やめてほしいのに深夜に徘徊とかしてた。その時は真白が身体の持ち主だから、僕の意志じゃ止めることが出来ないし。でも二十歳くらいにはピタッとそれもなくなった」
「キキって、今何歳なの。俺より年上だよね」
「……二十七歳。今年で二十八歳だよ。おじさんでしょ」
「おじさんではないけど、思ったより年上でびっくりした」
二十八という年齢は結城という人物にとっては年相応に思うが、キキには不釣り合いだ。全くそうは見えない。
「誰も知らないところで、新しい自分になって、過去を捨てたかった」
キキは天井を見上げて、ぽつりと独り言のようにそう呟いた。
(泣いている?)
「相模になら、話してもいいって思ったんだ。いや違うな、相模なら聞いてくれると思った。ごめんね、こんな話。重かったでしょ」
上を向いたままキキはそう言った。相模にはそれが泣くことをこらえているように見えて、次の瞬間にはキキのことを強く抱きしめていた。
「キキ、泣いていいんだよ」
キキは振りほどくことはしなかった。
「話してくれて、ありがとう」
相模がそう言うと、キキは相模の胸に顔を押し付け、声をあげて泣き始めた。子供のように泣きじゃくるキキの背中を、相模は宥めるように優しくさすった。
静かになったと思えば、泣き疲れたのか、いつの間にかキキは相模の腕の中で眠っていた。そのどこか似合わない幼さを纏うキキの寝顔をみて、相模は強く守りたいと感じた。
キキの寝顔を見るのはこれが二回目だ。
(あの時と今じゃまるで別人だ)
最初に見た寝顔は、とても苦しそうだった。今となってはそれが発情期のせいだと判っているが、その時はとりあえずの処置しかできなかった。
起きた後のキキはもう大丈夫と言う癖に、相変わらず硬い表情のままで。
キキには会った当初からかなり警戒されている。下心などなかったのだが、自分の接し方を鑑みると当然の反応だとは思う。仲良くなってからのキキは、笑ってくれるようにはなったが、どこか心を閉ざしたままだった。
(そんな事情があっただなんて、自分はつゆも思わなかった)
キキのそんな態度をずっともどかしく思っていた。
「キキ……」
キキを抱いたまま、背中からベットに倒れる。
キキが起きるまで、抱いていようと相模は思った。安心して眠れるように。
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