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遊泳⑵

 二人はどんどんと足を進め、別館のような場所に入る。そこはクラゲばかりが展示された綺麗な空間だった。いっそう照明の落とされた部屋に、色とりどりのクラゲたちが水槽の中で舞う。青っぽいライトのせいかプラネタリウムのようにも感じられる、なんとも幻想的な空間だ。 「綺麗……」  キキの言葉に、相模も「綺麗だね」と返した。  相模にとってもクラゲは綺麗だと思えた。でも、それよりも、薄暗いなか光に照らされるキキの横顔の方が、何倍も綺麗だった。  キキにバレないよう、その横顔を眺める。熱心に水槽を見るキキは、相模の視線に気づかない。キキの深い緑色の目にクラゲが泳ぐ。 「こんなに綺麗なのに、毒があるから誰にも撫でてもらえないんだね」  キキは恍惚とした表情で水槽を眺めながら、そう、ぽつりと呟いた。 「……そうだね」  先ほど訪れたふれあいコーナーはペンギンなど可愛いものを中心に集められていた。サメもいたが、小さくて映画のような凶暴な印象は一切なかった。 「僕なら撫でてあげるのに……」  キキが見ているのは『ミズクラゲ』で、身体の中に四つのクローバーの模様が特徴的なクラゲだった。綺麗だが色は白っぽく、周りの赤や青といったクラゲに比べると地味な印象だ。  他の客は「可愛い」と言って見るが、早々に立ち去り、より目立つクラゲを見に行く。 「キキはシンプルなのが好き?」 「わかんない。でも透き通ってて、一番綺麗だなって思う」 「俺も一番綺麗だと思うよ」  白くて、小さくて、まるでキキみたいだった。  それから食事をして、イルカショーを見た。ダイナミックなショーに圧巻される反面、キキが最初に言った言葉が思い出されて、相模は確かに、と思いながら見ていた。 「あんなにハードなこと、俺なら絶対に一日に何回もできない。一回が限界」 「そんなこと言って君も似たようなものでしょ」 「あんなに泳いだり、ジャンプしたりはしないよ」  アクション映画に出演したこともあるが、あれはなかなかに大変だった。普段しない動きを沢山するし、自然に見せるためには覚えたうえで、身体をちゃんと使いこなさねばならない。役作りとは別に、いわゆる肉体改造もしなければなかった。学ぶことも多かったが、やはり大変だったな、という感想が先に出てしまう。 「キキだって……っと」  キキだってそうだろ? と相模が言いかけた時、前方から足に鈍い衝撃を感じた。視線を落とすと、三歳くらいの男の子がぶつかって来たみたいだった。 「大丈夫? けがしてない?」  相模が膝を折って、目線を合わせて声を掛ける。見る限り外傷はない。ほっとしたのも束の間、男の子は「ママー!」と大声をあげて泣き始めてしまった。  わんわんとなく子どもに相模があたふたしていると、キキがその子を抱き上げた。 「どうしたの? ママとはぐれちゃった?」  キキは優しくそう問いかける。男の子は、うんと頷いた。 「そっかそっか。ママどこかな……」  子どもをあやしながら、キキは周囲をキョトキョロと周囲を見回す。  キキは、「もう大丈夫だからね、心配ないからね」と声を掛けながら背中をさする。 「どうしよう、迷子センターに行った方がいいのかな」  相模が尋ねると、キキは首を振った。 「少し待って来なかったらそうする。この辺ではぐれたなら、お母さんもすぐ近くにいると思うし」  キキの言葉通り、母親はすぐ近くにいたようで、キキに抱かれた我が子を見て駆け寄ってきた。母親を見るなり、男の子は母親のもとへ懸命に腕を伸ばす。キキの胸から寝返るように母親の腕のなかへ移った。 「もうはぐれちゃだめだよ、じゃあね」  母親は何度もキキと相模にお礼を言ったが、キキは気にしないでくださいと言って、手を振った。程なくして親子は頭を下げてから帰る人の群れの中に消えていった。

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