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第2話
俺は望月 綾人 。
29歳、男、サラリーマン。
大手企業Sコーポレーション営業部の中堅にも関わらず、彼女なし、独身。
若い頃はもちろんお付き合いくらい何度か経験したが、仕事が忙しくなり出した26歳以降ご無沙汰だ。
最後の彼女にフラれた理由も、「私より仕事が好きなんだね。」だとさ。
誰が好き好んで恋人との時間より仕事を取ると思う?
恋人を取ってたらクビになっていただろう。
そしてクビになったら俺はフラれていただろう。
結局どっちの選択肢を選んでも、俺はその彼女にはフラれていたわけだ。
「綾人〜、これ今日までによろしく!」
「え、ちょっと、千紗 ?!」
「残業ファイト!」
今俺に仕事を押し付けてきたのが、その元彼女。
伊藤 千紗 。
同じSコーポレーションで働いている。ちなみに総務課。
ご覧の通り俺には全く未練がないようで、なんなら俺と別れて3ヶ月後には新しい彼氏を作っていた。
これでも2年は付き合っていたし、同棲だってしていた期間があったんだぞ?
正直俺は結構引きずっていた。今はもうなんとも思わないけど。
俺は千紗に押し付けられた書類に目を通した。
千紗の言ったとおり、定時に帰れる気がしない。
4月に入って間もない今、久々に定時退社できているのに、この量じゃ残業確定コースだ。
机に項垂れていると、後ろから覗き込まれた。
「どうしたんですか?」
「城崎!いいところにきた!!」
声をかけてきたのは営業部のスーパールーキー。
城崎 夏月 。
この4月から二年目になるが、一年目の初営業から契約をもぎ取った、上司も俺も一目置いてる期待の新人だ。
もう新人ではないが、これからの成長が最も期待されている。
狙った企業は逃さず契約を取ってくるし、何より仕事が早い。いつの間にか俺も成績抜かされそうだ。
背も高いし、イケメンで清潔感もある。
正直めちゃくちゃ羨ましいし嫉妬しそうになるが、城崎は一年目の頃からえらく俺を慕ってくれている。
俺に付いてくる姿は仔犬さながらの姿だ。
なので、城崎は俺の自慢の後輩なのだ。
「城崎、悪い!これ、手伝ってくれない?」
「いいですよ。」
「マジで?!本当助かる!!ありがとう!!」
城崎は俺のデスクから資料を半分ほど自分のデスクに持っていった。
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