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第60話
次の日のことだった。
いつも通り出勤して、いつも通り働いて、何事もなく終わるはずだった俺。
営業部前で待ち伏せする千紗に出会うまでは。
「綾人♪」
「な、なに…?」
「明日、何の日か覚えてる?」
「え、えっと…」
明日は5月8日、千紗の誕生日だ。
別れた一年後、千紗が冗談めかして俺に誕生日プレゼントをもらいにきたことがある。
別に消費できるものなら良いかと思い、毎年プレゼントをあげていた自分を今は全力で殴りたい。
千紗は勿論今年も貰えるものだと思い、こうして俺を待ち伏せしてまでプレゼントを集 りにきたのだ。
「忘れてた?」
「忘れてないよ…。」
「なのに、今年はないの?」
「うん。」
「なぁんだ。」
千紗は基本ドライだが、彼氏対しては甘えん坊な一面がある。
多分俺は千紗のそういう一面を知っている数少ない人間だから、時々こうして甘やかして欲しくなる時があるんだろう。
「じゃあ、ご飯行こ?」
「なんで?彼氏いるだろ?」
「今日、彼遅いの。」
「俺と行ったら浮気だと思われるだろ。」
「ご飯くらいで怒るほど心狭くないよ、私の彼。」
「つったってなぁ…。俺、元彼氏だぞ?」
正論を並べて回避しようと試みる。
心が狭いのは千紗の彼氏ではなく、俺の恋人だ。
千紗にプレゼント、もしくは千紗と食事、そんなことしたらどうなることか…。
考えただけでもゾッとする。
「綾人〜、駄目?」
「駄目。」
「なんで?まさか彼女でも出来たの?」
まぁ大方あたりだ。正しくは彼女ではなく彼氏だが。
途方に暮れていると、仕事を終えた城崎と涼真が営業部から出てきた。
「先輩?」
「よ、よぉ…、城崎……。」
千紗に腕を引っ張られてお強請りをされている俺。
助けを求めるように城崎にアイコンタクトを送る。
「先輩、今日俺と飯行くって約束しましたよね?」
「あ、あぁ!そう!金曜だから!な?千紗、今日は無理なんだよ…!」
「えぇ〜。私も行く!」
「へ?」
「え、楽しそう。俺も行く〜!」
「涼真?!」
「決まりだね〜!さ、行こ行こ〜!」
城崎の助け舟も虚しく、地獄のようなメンバーでの飲み会が決定した。
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