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第62話
もう、本当に地獄。
お前らの知りたい城崎の恋人はこの俺、そして俺の恋人は俺の真正面で不機嫌そうに酒を煽ってるこの男だ。
バラしてもいいのか、ダメなのか。
俺には判断しかねるので、城崎の出方を伺う。
城崎は空にしたジョッキをガンッと机に置いた。
「すみません。もう一杯。」
「お、お待ちくださ〜い…」
個室の扉を勢いよく開け、近くを通った店員に空のジョッキを渡す。
城崎の怒りは事情を知らない第三者を怖がらせるほど、明からさまで微塵も隠しきれていなかった。
もう怒りを隠す気のない城崎を見て、二人はポカンと口を開ける。
そして空気の読めない涼真は、城崎の背中をぱしんっと叩いた。
「なにそんなカリカリしてんだよ。上司の前くらいおべっか使え?そんなんじゃ世渡りできねーぞ。」
「お前が言うな…。」
俺はついツッコミを入れてしまう。
正論だが、いつも無意識に上司のプライドを粉々に砕こうとする涼真が言うセリフではない。
「綾人は思わねーの?さすがに楽しい酒の席でこの態度はダメだろ。体調悪いならそもそも断ればいい話だし。」
「あ、あのさ…」
「城崎の恋バナNGなのかなーって思ったから、こっちは気遣って綾人の恋バナしただけじゃん?何をそんな怒ってんの?」
「りょ、涼真……!」
「城崎は綾人のお気に入りだし、俺だっておまえのこと好きだから何も言わなかったけど、今日の態度はあんまりだぞ?」
もうこの際本当のことを言ってしまった方がいいのではないだろうか。
そう思って涼真の話の間合いに切り込むが、涼真の説教は止まらなかった。
涼真が大きなため息をついた瞬間、城崎はバンッと机を叩き、立ち上がった。
嫌な予感がして冷や汗が背筋を伝う。
「さっきから大人しく聞いてりゃ好き勝手話して楽しそうですね。おまけに説教まで。」
「城崎……?」
こいつ、目据わってる。
ヤバいと思った瞬間、俺は城崎に襟元をグイッと引っ張られ、そのまま一直線に城崎の唇と俺の唇が重なった。
「んっ…、し、城崎っ…!」
いつもと違って激しくて乱暴だ。
勢いよくぶつかったから、唇が切れて血の味が滲む。
「ぁっ、んぅ…んっ…んぁ…」
数十秒にも及ぶ城崎の怒りを含んだ激しいキス。
大きなリップ音を立てて城崎の薄い唇が離れていく。
俺と城崎の男同士の獣みたいなキスを見て、二人とも口を開けて固まっていた。
「俺と先輩、真剣に付き合ってますから。もう俺たちの前で二度とふざけた話しないでください。これ、俺と先輩の分です。」
城崎は机に一万円札を叩きつけ、そう吐き捨てた。
個室の扉を勢いよく開き、俺の手を引いて店を後にした。
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