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第63話

店を出て夜道を早足で歩く。 城崎は爪が食い込むくらい強く俺の手を握っていた。 「し…、城崎…っ!」 こっちを見ようともしない。 ついこの前もそうだった。 千紗の荷物とかいっぱいあって怒ってた時。 「城崎っ、痛い…っ!」 「……っ!ご、ごめんなさい、先輩!」 俺が叫ぶと、城崎は歩みを止め、俺に向き直って謝った。 城崎、何でそんな顔してるんだよ。 「後悔してる?さっきのこと…」 「いえ…。でも感情任せにバラしちゃって、俺はともかく先輩がどう思われるか考えてませんでした。ごめんなさい。それに場の雰囲気壊しちゃいました…。」 「いいよ。いずれ涼真には言おうと思ってたし。千紗は想定外だったけどな。二人とも偏見で俺たちのこと気持ち悪がったりするような奴らじゃないし、きっと大丈夫だよ。場の雰囲気ぶち壊したのは、今度二人で謝ろう?」 「先輩……、ごめんなさい。」 「謝んなって。大丈夫。俺こそ城崎が嫌ってわかってたのに無理矢理にでも止められなくてごめんな。」 「先輩が断ろうとしてたの、見てたら分かります。我慢効かなくてごめんなさい…。」 「あー、もう。謝るなってば(笑)」 城崎は相当後悔してるのか、何度も俺に謝った。 二人に伝えたこと自体は後悔していないのだろうが、俺に断りなく暴露したこと、あと俺とあいつらの関係を壊したんじゃないかってことを随分気にしているようだ。 俺は全く怒ってないのに。 「唇、痛いですか…?」 「んーん。痛くないよ。」 「爪立てたとこ、ケガしてない?」 「大丈夫。」 「先輩……、ごめんなさい……。」 反省モードはなかなか終わらないようだ。 叱られた仔犬みたいにしょげる城崎。 人前なのに抱きしめそうになる。 「城崎、俺ん家おいで。」 「先輩……?」 「今週頑張ったしさ、甘やかしてやるから。」 城崎は泣きそうな顔で俺の服の裾をぎゅっと握った。 人目を気にした精一杯の甘えだろう。 「ほら、帰るぞ。」 「先輩、キスしたい。」 「帰ったらな。」 「先輩、甘えていい?」 「それも、帰ったら。」 「先輩は甘えられても引かない?大丈夫?」 「俺だって男だぞ?甲斐性(かいしょう)くらいあるわ。」 いつもの城崎じゃ考えられないくらいネガティブな城崎。 今日はいつもよりうんと甘やかしてあげようと思った。

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