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第84話

俺と城崎は始業時間ギリギリにデスクに到着した。 部長が朝の挨拶といくつかの業務連絡を伝え、短い朝礼を終えてみんなデスクに着き仕事を開始する。 「あー、望月、城崎。ちょっと……」 「は、はい…?」 部長に呼ばれドキッとした。 何で俺と城崎…? いや、まさかな……。 城崎と部長の前に並んだ。 「二人、来月名古屋に出張。」 「「えっ…?」」 部長からの予期せぬ御達(おたっ)しに二人とも固まった。 「ん?なんだ二人とも驚いた顔して。城崎は出張初めてだろう?一年目の時から望月のことよく慕ってるから、いいペアかと思ってなぁ。」 「はい!望月さんには学ばせていただくことがたくさんあります。お気遣いありがとうございます、部長!」 「上もみんな期待してるんだ。いい結果残して帰ってこいよ〜。」 「はい!」 城崎は目をキラキラさせて、ブンブン尻尾を振ってる。 あー…、なんか嫌な予感するわ。 「ってことだ、望月。城崎のフォローよろしく頼むぞ。」 「はい。」 「じゃ、解散。」 部長がパンっと手を叩き、それぞれのデスクに戻る。 城崎はとても上機嫌だ。 デスクに戻ると涼真に小声で声をかけられる。 「なんだった?」 「来月、城崎と二人で名古屋まで出張。」 「へぇ!よかったじゃん!」 「何がだよ。」 「恋人と旅行みたいでいいじゃん?」 「よくねぇよ……。」 城崎がご機嫌な理由もそうなんだと思う。 勿論俺だって、城崎と二人きりになれるのは嬉しい。 でも出張はすっごく嫌。 だって………。 「めちゃくちゃ期待されてる若手の初出張だぞ…。いい結果残せなかったら俺がやいのやいの言われそうじゃん…。」 「おぉ…、先輩としての重圧…。」 「そういうこと。」 この営業成績を(かんが)みるに、城崎はあっと言う間に出世コースだと思う。 そんな若手の初出張で白星をあげられなかったら…。 まだ半月も先の話なのに胃がキリキリと痛んだ。 胃薬を飲んでいると、城崎が心配して俺のデスクに近づいた。 「先輩?」 「おまえ…、死ぬ気で契約もぎ取れよ…。」 「先輩がそう言うなら、必ず取りますよ。」 俺が死んだ顔をしているのに、城崎は笑顔でそう言った。 あぁ、なんかこいつがそう言うなら、本当に取るんだろうな。 そう思ったら少し胃の痛みがマシになった気がした。

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