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第111話

「望月〜〜!!よくやった!本当によくやった!」 翌日出勤した俺は、部署に着くなり部長に褒めちぎられた。 名古屋の大企業T社との契約更新に加え、1日目城崎が契約をもぎ取ったのも大手企業。 上からも称賛されたのだろうと察しがついた。 「部長、T社はともかく、もう一社は完全に城崎のおかげですよ。」 「おぉ?!そうなのか!城崎、お前はやっぱり凄いな!」 「いえ、そんな…。望月さんが手厚いサポートをしてくださったおかげですよ。」 城崎は謙遜(けんそん)しているが、あの会社ばっかりは城崎じゃなければ契約には至らなかっただろう。 デスクに戻ると、涼真が不思議そうに俺に尋ねた。 「一日目の大手って、綾人が上手いことやり取りしてたとこじゃねぇの?」 「あぁ、そのはずだったんだけどな。蓋開けてみりゃ、とんだハズレ担当だったよ。」 「へぇ。どんな?」 「15人にプレゼンって言ってたのに30人連れてきて、資料のコピーも取らせてくれない意地悪い担当。」 「わぁ。絶対嫌だ。」 涼真にことの一部始終を話すと、城崎を褒めちぎっていた。 そりゃそうなるよな。すげぇもん。 涼真は「そういえば!」と思い出したように俺に伝えた。 「一昨日お知らせがあったんだけど、今年も納涼会やるんだってさ。」 「へぇ、いつ?」 「7月初旬。城崎にも伝えといてくれよ。」 「了解。」 涼真は自分のデスクに戻り仕事を始めた。 納涼会は部長が好きで始めた事だけど、今じゃ夏の初めに行う営業部の恒例行事。 川辺の流しそうめん台がある施設を貸し切って行なっている。 みんな私服でわいわい、上下関係を割と無視して話せるフランクな(もよお)し。 営業部が仲良い理由の一つに納涼会も入っていると思う。 川遊びもできるからお子さんを連れてくる人もいて、子ども好きな俺は毎年密かに楽しみにしていたりする。 「先輩、何かいいことありました?」 「城崎…!」 俺のデスクの横を通りすがった城崎に顔を覗き見られる。 不意打ちの城崎のドアップにドキドキしてしまった。 「納涼会、7月頭にやるんだよ。城崎も来いよ?」 「へぇ、そんなのあるんですね。勿論、先輩が行くなら行きますよ。」 「俺が行かなくても行けよ…。」 「そんなことより、この後ランチでもどうですか?」 「あの前行ったお洒落なカフェレストラン行きたい。」 「いいですね、じゃあまたあとで。」 城崎は俺に顔を寄せ、耳打ちをするふりをして頬にチュッとキスをしてデスクに戻っていった。 「望月くん、風邪?顔赤いよ?」 「いや、何でもないです…っ」 上司に心配され手で顔を仰いだ。 会社でああいうことされるのは本当勘弁だ。 その後しばらく何も手につかず、気がつくと12時になっていた。

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