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第126話

「戻りました……。」 周りの顔色を伺いながら部署に戻ると、みんな心配そうに俺の元に駆けつけた。 「望月くん、大丈夫??」 「腹下したんだってな?立てないくらいって聞いたぞ?早退しなくて大丈夫か?」 「城崎くんが近くにいてよかったね。トイレまで運んでくれたんでしょ?」 「目赤いぞ。泣くほど痛かったのか?」 えぇ……? ぞろぞろと集まってくる同僚に、俺と城崎は困惑した。 涼真、一体なんて言ったんだ……? 俺が腹を下した設定なことは間違いないだろうが。 「望月、大丈夫か?」 「ぶ、部長…!すみません、こんな長い時間…」 「いいや、君が無事ならいいんだけどな。城崎は抜けた分サービス残業するって聞いたし。」 「?!」 「ん?そうだよな、柳津。」 城崎が驚いた顔をすると、部長は涼真を振り返って確認した。 涼真は苦笑いして頷いている。 あいつ城崎だけ助けてやらなかったのか。 「部長、俺も抜けた分残ります。」 「望月は体調悪いんだから早退しないなら定時で帰れ。その分城崎がやってくれるだろ。」 「そんなブラックな…!」 「まぁどっちにしろ今日は帰れ。そんなにしたいなら後日体調のいい時にサビ残でなんとかしろ。今日は部長の特権で許す。」 部長が「散った散った」とみんなをデスクに戻した。 ホワイトなのかブラックなのか分からねぇ…。 城崎は本当に俺の分もやる気なのか、デスクに着くなり急ピッチで仕事を(さば)き始めた。 俺はパソコンを打ちながら、涼真に話しかける。 「おまえ、なんて言ったんだよ…?」 「何って、綾人が腹下して倒れて、城崎が運んだって。そしたら部長が城崎は関係ないから連れ戻してこいって言うから、城崎はサビ残切って抜けた時間やるからそばにつくらしいですって言っといた。」 「あぁ、そういうこと…。」 可哀想な城崎。 でも1時間半下痢してると思われている俺も可哀想。 「お前本当、嘘が雑。」 「えぇ?!ナイスフォローだろ?」 「俺はともかく、城崎可哀想。」 「でも抜けてた時間仕事するだけだし拘束時間は変わんねぇよ?」 たしかにそうだな。 というか、普通ここは涼真に感謝すべきところだ。 「悪い。ありがとな。」 「どういたしまして。」 素直に礼を言うと、涼真は嬉しそうに笑った。 俺も城崎に仕事を押し付けることにならないよう、いつもより丁寧かつ迅速に書類を捌いていく。 集中しているとあっという間に定時になって、みんな「お疲れ様〜」とどんどん退社していった。 城崎のこと待っててやりたいけど、多分俺まで残ってたら部長に帰れとぐちぐち言われるだろうから、大人しく帰ることにした。 俺は城崎にメッセージを入れて自分の家に帰宅した。

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