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第139話

黄色の軽自動車。 まだ買って数ヶ月なのか、外見も中身も綺麗だ。 「ちゅんちゅん新卒にしては良いの乗ってるじゃん。」 「へへ。彼女とよくドライブするんで、親に前借りして買っちゃいました!」 「わー、出たよ。後先考えない馬鹿。」 「こら、城崎!」 意地悪言う城崎の頭を叩く。 まぁでも彼女には見栄張りたいよな…。 「にしても、黄色って派手だな。」 「彼女が好きなんすよ!それに明るくてテンション上がるっしょ?」 「俺は上がんねぇなあ。」 「まぁいいじゃないっすか!それより席どうします?」 じゃんけんにするかくじにするかって話をしてたら、城崎は俺を助手席に押し込んで、自分は運転席に乗り込んだ。  ちゅんちゅんが運転するんじゃないの? みんなそう思ってぽかんとしている。 「城崎さん、これ俺の車なんすけど…。」 「ちゅんちゅんの運転とか怖ぇーもん。しかもこんな山道。」 「そんなことないっすよね?!ね?!」 「「……………」」 城崎の言うことも一理あって、俺と涼真は黙ってしまった。 結局不貞腐(ふてくさ)れたちゅんちゅんを涼真が(なだ)めて後ろに乗り、車が発進する。 運転する城崎、初めて見る。 城崎の横顔を見つめてキュン…としていると、ちゅんちゅんが車内に音楽をかけ始めた。 しかもEDM系の音楽だ。 「趣味悪。」 「はぁ〜?城崎さん、分かってないっすね。エクスタシー感じません??」 「感じねぇよ。てかせめて音量下げろ。」 「じゃあ城崎さんはどんな曲が好きなんすか?」 「よく聴くのはジャズかな。」 「うわっ、おっさんくさ!渋っ!」 「お前のガシャガシャしてんのよりよっぽどマシだろ。」 城崎とちゅんちゅんが言い合いしてて、俺と涼真は一歩引いてそれを見ていた。 てか、城崎ジャズ聴くんだ…。 格好良い。しかも似合う。 ジャズ流れてるバーのカウンターでカクテル飲んでそう。 「ねー!望月さんと柳津さんはどっち派っすかぁ?」 「えぇ……。俺らは結構ポップとかロックとか聴くよなぁ…?」 「そうだな。どっちも聴かねぇな。」 突然ちゅんちゅんに話を振られて、涼真に相槌(あいづち)を求める。 涼真は「これにしようぜ。」と自分のスマホから最近人気の音楽ランキングをシャッフル再生で流した。 好きな曲とかも流れて明らかに上機嫌になった俺を見て、城崎も満足そうだ。 「まぁドライブにジャズはないっすよね〜。」 「ドライブには流さねぇよ、さすがに。」 「じゃあドライブ中は何聴くんすか?」 「ミズチルとかV'zとか。」 やっばい。城崎趣味良すぎて無理!! ちゅんちゅん、いいぞ…!もっと聞け! 俺は内心、ちゅんちゅんの城崎への質問に興味津々だ。 普段こんな話しないから、城崎の音楽の趣味なんか初めて聞いた。 「綾人もミズチル好きだよな。」 「う、うん!」 「へぇ、そうなんですか?今度ライブ行きます?」 「行きたい!」 涼真のナイスパスに乗っかると、城崎が俺をデートに誘ってくれる。 え、これデートの誘いだよな?そうだよな? 涼真にお礼を言いたくて目配せすると、涼真はそれに気づいてウインクした。

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