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第149話

カメラを受け取りに戻ろうとすると、もう少し見ておいでと勧められた。 この辺には他の観光客も少なくて、俺たちはお言葉に甘えて少し辺りを探索した。 「先輩、見て。」 「わっ…、蜂?」 「うん。ミツバチ。」 「虫、平気?」 「ゴキブリは無理です。」 「ぶはっ…!」 他愛もない話をしながら城崎と歩く。 さっきまでと違って心穏やかな城崎。 あぁ、幸せだな…。 城崎とキスしたい…。 「なぁ、城崎。」 「なんですか?」 「ちょっとこっち。」 しゃがみこんでグッと城崎の腕を引く。 城崎もしゃがみこんで、俺の視線と同じ高さになった。 城崎の後頭部に手を回し、引き寄せてキスをする。 「ここならさ、誰にも見えないじゃん?」 「先輩…っ」 「向日葵とミツバチだけしか知らないよ、俺たちのこと。」 もう一度キスすると、城崎は俺をぎゅっと抱きしめてキスを深くした。 お互いキスに夢中になっていたが、カシャッというシャッターの音で我に帰る。 驚いて周りを見ると、さっきのお爺さんが俺たちを撮っていた。 「「え……?」」 「いいの撮れたよ。」 暑くて汗をかいていたのに、それは突然冷や汗に変わる。 待って?今の撮ったの…? てかお爺さん、なんで…?! 「撮っちゃ駄目だったかい?」 俺が口をパクパクさせていると、お爺さんがそう尋ねた。 「お願いです!このこと、誰にも…っ」 「言わないし、彼のカメラで撮ってるから私のカメラにはデータはないよ。向こうに置いてきたから、私のカメラ。怖いなら確認してもいい。」 確かにお爺さんの手には城崎のカメラだけ。 城崎はカメラを受け取って画像を確認する。 「めちゃくちゃいい写真ばっかり…。」 「だろ?なんせ被写体がいいからね。」 「なんで……?」 俺はお爺さんの行動が分からなくて怖かった。 だって、俺たちは男同士。 俺たちが好き合ってても、世間から見れば普通じゃない。 世の中は偏見を持つ人で(あふ)れているから。 「なんでって、君達恋人だろう?」 お爺さんの言葉に、俺の目から涙が(こぼ)れた。

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