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第154話

城崎の腰に抱きつく。 城崎は(あき)れた顔で俺を見たが、無理矢理離そうとはしなかった。 「ごめん…、しろしゃき。」 「呂律回らなくなるほど飲まないでください…。」 怒ってるはずなのに、俺を撫でる手は優しい。 こういうとこ、狡いよな。 「私はそろそろ休憩時間終わるからお(いとま)するわね〜。最後デザート持ってくるから待っててね♡」 「でざーとっ!」 麗子ママがウインクして席を立った。 二人きりになって、城崎の表情が少し緩む。 「それより、あんまりぺらぺら離しちゃ駄目ですよ?麗子ママだからよかったものの…。」 「()って、ふ()んこんなはなし()きるひといにゃ()いもん…。」 「そうですね。ていうか、俺のセックス上手いですか?」 「うまいよ。きもちいもん。」 「ふふ。先輩、可愛い。」 城崎は俺の頭を撫でながら優しい顔で笑う。 城崎のこの顔好き。 腰にチューをしていると城崎に「こら。」と小突かれる。 「ラブラブ中悪いけど、持ってきたわよ〜♡」 麗子ママがろうそくのついたケーキを持ってくる。 ホール?誕生日おめでとうの文字…? しかもろうそくの形、24って…。 まさか?! 回らない頭でもさすがに分かって、城崎の方を振り返る。 「夏くん誕生日おめでとう〜♡」 「ちょ、麗子ママやめて。先輩びっくりしてるから、ちょっと待って。嬉しいけど。」 クラッカー鳴らして拍手する麗子ママを制止して、城崎はぽかんと口を開ける俺に説明した。 「来週ですから。今日ではないです。」 「いつ…?」 「7月22日。俺、名前の通り夏生まれなんですよ。」 「なん()教えてくれなかったの…?」 「あえて俺から言うのも変な話かなって…。」 「バカァ……。」 周りは知ってるのに、恋人の俺が誕生日を知らないってことがすごく悲しかった。 たしかに城崎と誕生日の話なんてしたことなかったし、聞いたこともなかったけど。 でもそれなら言ってほしかった。 誕生日もうすぐだから○○欲しいって甘えてほしかった。 えぐえぐ泣いていると、城崎と麗子ママに(なだ)められる。 「ごめんなさいっ!まさか夏くんが言ってないとは思わなくって…。」 「先輩、ごめんなさい。泣かないで?」 あぁ、駄目だ、泣き止まないと。 せっかく用意してくれたケーキが台無しになってしまう。 ゴシゴシと涙を拭き、潤む視界に映る大きいホールケーキを見つめる。 「じゃ、じゃあ仕切り直しましょうか!夏くん、誕生日おめでとう〜!」 「ありがとうございます。」 クラッカーがパンパンッと鳴って、店内にいる他のお客さんも城崎のことを祝ってくれた。 俺は躍起(やっき)になって、城崎へのプレゼントであるホールケーキをどか食いした。

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