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第176話

他にも捨てられたものは多々あるが、そこまで困ってもいないのでインテリアショップは後にする。 ショッピングモール内を歩いていると、ふと旅行代理店が目に入る。 半歩前を歩く城崎の裾を引っ張った。 「なんですか?」 「城崎……、旅行行かない?」 「え?」 「もうすぐ夏季休暇あるじゃん。二人でどっか行かね?」 城崎は固まった。 さすがに旅行は駄目だったかと肩を落とし、歩みを再開した。 「わ、悪い。冗談……。」 「えっ?!」 「え?」 「行きたい……です……。」 今度は城崎が俺の裾を引っ張った。 「焦った。嫌なのかと思ったから…。」 「いや、思わぬ誘いに驚いただけです。めちゃくちゃ行きたいです。」 「ん、よかった。どこにする?避暑地?」 旅行代理店の前には沖縄、北海道、長野からハワイといった海外までいろんな旅先のパンフレットが並んでいる。 城崎はその中から迷わずに伊豆パンフレットを取った。 「伊豆行きたいのか?」 「はい。」 「まぁ避暑地だな。でもなんで伊豆?」 「先輩と行きたいところがあるので。」 城崎は嬉しそうにパンフレットを見ている。 伊豆だと自然も楽しめるし、温泉もあるしいいかもしれない。 「あ、待って。」 「何ですか?」 「俺、温泉入れないじゃん。」 温泉というワードで思い出す。 俺大事な毛を剃られたの忘れてた。 こんなの人に見られたら変態扱いじゃん。 温泉好きな俺にとって、温泉街に行って温泉に入れないのはショック過ぎてあからさまに落ち込むと、城崎は俺に耳打ちをした。 「前も言いましたけど、先輩の裸、他の男に見せる気ないので。」 「だって温泉……」 「俺と二人で入りましょうね。」 チュッとリップ音を鳴らして耳元から城崎の顔が離れた。 顔に熱が集まりブワァッと熱くなる。 こんなとこで何言ってんだよ…。 「と、とりあえず行くなら予約する…?」 「空きがなくなる前に予約しましょう。今すぐに。」 俺たちは旅行代理店に入り、受付番号を発行する。 待っている間にパンフレットを見ながら、城崎と二人で話し合った。 「一泊にする?二泊にする?」 「二泊がいいですけど、露天風呂付きの部屋取りたいんで予算も考えると一泊ですかね…。」 「お、男二人で露天風呂付きってなんか変に思われねぇかな…?」 「まぁその辺はどうとでも誤魔化せるでしょ。」 城崎は何の問題もなさそうに、ホテルや観光地の目星をつけていく。 伊豆といえば熱海。 熱海といえば海と温泉だ。

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