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第177話

「城崎」 「はい?」 「海行きたい。」 熱海に行って海に行かないなんて、俺としてはあり得ない。 まぁ別に海を楽しむような歳でもないけど、季節柄的にも小一時間くらい海を感じたい。 「えぇー。」 「嫌?」 「まぁ先輩が言うなら……。」 城崎はめちゃくちゃ嫌そうな顔をしたが、渋々了承してくれた。 そうこうしているうちに俺たちの順番が回ってきて、テーブルに案内される。 「今回はどちらへ行かれるか決められていますか?」 「あぁ、はい。伊豆に。」 「お二人ですか?」 「はい。」 城崎を見ても動じない。 このベテラン社員は40代前半とみた。 「先輩?」 「あ、ごめん。なんだっけ?」 「旅館。露天風呂付きの部屋何個か探してもらったので、どこがいいですか?」 テーブルには旅館の名前と写真が並べられている。 丸い石製の風呂や四角い木製の風呂、あとはライトアップできる風呂、あと風呂自体は小さいけどヴィラになってるところ。 どれでもいいけど、値段と部屋の大きさとかも考えると…。 「これかな。」 「でも先輩……」 城崎は俺に耳打ちし、ニヤニヤした顔で俺を見た。 恥ずかしすぎて俺の顔は真っ赤だ。 「こっちで!!」 「かしこまりました。お連れ様もこちらでよろしいですか?」 「あー、待ってください。ルート的にこっちにします。」 「おい?!」 俺は丸い風呂のある、他より少し小さめの部屋を選んだ。 しかし、城崎は露天風呂付きヴィラの方に選び変える。 てかルートが何だって言うなら最初から選択肢なんてなかったじゃん!? 社員さんが奥へ行ったのを確認して、俺は城崎を睨んだ。 「睨まないでくださいよ、先輩。」 「うるさい!!第一こんなとこであんな…!!」 「あんな…、なんですか?」 城崎の余裕そうな表情を見ると、負けた気がして何だか悔しい。 城崎は耳打ちとはいえど、社員さんがいる前で破廉恥(はれんち)なことを言ったのだ。 四角い木製の風呂の写真を指差しながら「こっちの方がお風呂セックスしやすそうですね。」って!! 本当馬鹿!!馬鹿じゃねぇの?! 「絶対城崎と風呂入んねー。」 「何でそんな意地悪言うんですか?」 「おまえが意地悪いことばっか言うからだろ!」 「じゃあ俺は、裸の先輩見ながらお酒でも飲もうかな…。」 「それも嫌!!」 言い合いしていると社員さんが戻ってきて、俺は口を閉じて座り直した。 無事予約は完了したらしく、あとは交通手段を決め、行きたいところをいくつかピックアップして所有時間を確認した。 「ではレンタカーで、旅館は8月13日16時以降チェックイン、14日10時までにチェックアウトで予約しております。プランはお客様自身でお決めになるということで、特にこちらからは何も予約などは致しません。以上でよろしいですか?」 「はい。ありがとうございました。」 予約控えとパンフレットを持って、旅行代理店を後にする。 城崎は至極(しごく)ご機嫌で鼻唄まで歌っていた。

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