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第189話
城崎の手を引いて波打ち際を歩く。
ザザンッ…と波が俺たちの足をさらう。
「冷たっ」
「先輩、足下気をつけてくださいね。」
「はいはい。」
砂を踏む感触が懐かしい。
時々貝殻がチクチクして痛いけど、高が知れている。
もうすぐ帰るなら、せっかくだし海に入りたい。
「城崎、行くぞ!」
「ちょっと、先輩!いきなりそんな走ったら…」
「うわぁっ!?」
海に向かってジャバジャバ走ったら、海面が胸の高さまで来たあたりでいきなり足場がなくなって、頭の先まで海に浸かる。
パニックになりかけたが、すぐに城崎が俺を海面に引き上げた。
「ゲホッ…!わ、悪い…。」
「先輩……、無事でよかった……。」
「死ぬかと思った…。」
「心配かけないでください。」
まだ心臓バクバクいってる。
本当に焦った。マジで城崎いなかったらヤバかった。
溺れて死ぬなんて絶対嫌。苦しいじゃん。
「ありがとな。心配かけてごめん。」
「もう海では俺から離れないでください。本当誘惑と危険しかないんですから…。」
「そんなことねぇよ。綺麗じゃん。」
「透明過ぎて悪戯 できませんけどね。」
「なっ…?!」
何言ってんだってつっこもうとしたが、現状を把握して一気に恥ずかしくなる。
俺は城崎に助けてもらったまま、城崎の首に手を回して抱きついている状態だった。
浮き輪で遊ぶ親子やイチャイチャしているカップル、色んな人から注目の的になっていた。
だって男が公衆の面前で堂々と抱き合ってるんだもんな。
誰だって見るよな、そりゃ。
慌てて城崎から手を離し、俯いた。
「悪い……。」
「俺はウェルカムですけど。」
「馬鹿…。帰るぞ。」
城崎を置いて先に砂浜へ歩くが、何せ歩きにくく何度も躓 いた。
格好悪い、俺………。
パラソルやシートを片して一度車に置きに戻る。
着替えを持ってシャワー室へ向かった。
ちょうど隣同士で空 いていた所に入るが、城崎は俺の入った個室の前で立ち止まる。
「城崎、隣空 いてんぞ?」
「いや、ここで待ってます。」
「なんで?」
「先輩が誰かに覗かれたら嫌なので。」
恥ずかしげもなく城崎は言った。
言われた俺が恥ずかしくなって、カーテンを閉めてさっさとシャワーを浴びた。
シャワー中、近くで女の子が誰かをナンパする声が聞こえる。
言わずもがなそのターゲットは城崎なのだろうが、断ってくれているのでよしとする。
全く、カーテン越しに恋人がいるんだぞ?!
何人様 の恋人にナンパしてんだって心の中じゃ思いつつ、そんなこと言って飛び出した日には社会的に人生が終わるのでグッと我慢する。
シャワーを終えてカーテンを開け、立て続けにナンパされている城崎をシャワー室へ押し込んだ。
「早く出てこいよ…。」
「わかりました。」
城崎は俺が嫉妬していることに気が付き、嬉しそうに微笑んだ。
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