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第192話

少し目を離しただけで、城崎は女の子たちに囲まれていた。 油断も隙もあったもんじゃない。 でもまぁ、話しかけるよな、普通。 黒のVネックのタンクトップにセットアップの半袖シャツとハーフパンツ。 おまけに顔もスタイルも良くて、整えられた頭にはオシャレな黒のサングラス。 どこに行っても女の子が放っておくわけない。 「城崎…」 「わぁ!連れのお兄さんもかっこいい〜♡」 「一緒に写メ撮りませんかぁ?」 「いや、あの……」 嗚呼(ああ)、夏ってダメだ。 女の子の露出度が高すぎてダメ。 城崎を取り返したかったのに、女の子の鎖骨とか胸とかが視界に入って思わず目を()らす。 普通男として喜ぶべきなんだろうけど、俺は今恋人がいて、しかもその恋人と旅行に来てて、なんなら恋人は男だから俺が女の子見て鼻の下伸ばしてたら気分悪いだろ。 案の定城崎は女の子に胸を押し付けられながら不機嫌そうな顔をしている。 不機嫌な理由は100%俺のせいだ。 「下品。」 「?!」 「退()いてくれませんか。」 城崎は低い声で女の子たちにそう言った。 女の子たちも何かを察して、そそくさと離れていく。 「城崎、どっちがいい…?」 怖い顔をした城崎の顔色を伺いながら、恐る恐るジュースを手渡す。 すると城崎はさっき怒ってたのが嘘のように、笑顔で振り向いた。 「ありがとうございます。先輩はどっちが飲みたいですか?」 「え…、あ、俺はソーダが飲みたいけど…。」 「じゃあ俺はもう一個の方でいいですよ。」 城崎は俺の右手からミックスジュースを受け取った。 本当、絵になるな…。 ボーッと城崎を見ながらストローを咥えていると、城崎が俺の左手を引き寄せた。 「こっちもちょうだい。」 「わっ…」 城崎はなんの躊躇(ためら)いもなく、さっきまで俺の咥えていたストローに口をつけた。 いや、それ間接キスなんだけど。 男同士なんだからそんなおかしいことでもないのに、意識して顔が赤くなる。 「先輩、もしかして気付いちゃいました?」 「な、何を…?」 意識してるのをバレたくなくてシラを切ると、城崎は俺の耳元に顔を寄せて囁いた。 「間接キス」 「っ?!」 耳がゾワゾワッとして後退(あとずさ)りすると、城崎はニヤニヤ笑って俺を見ていた。 思わず顔を逸らすが、城崎が見逃してくれるはずもなく、人目の少ない木陰で抱き締められた。 「こ、(こぼ)れるから…っ」 「大丈夫。」 「見つかったらどうするんだよ…」 「どうしましょうね。でも先輩が可愛すぎるからこんなことになってるんですよ?」 「……………」 「これでもキスしたい気持ち、めちゃくちゃ抑えてるんですからね?」 城崎に抱きしめられてドキドキしているのか、誰かに見つかってしまうかもしれないというドキドキなのか自分でもわからない。 ただ分かるのは、俺がすごく緊張してるってことだけ。 「はぁ…、本当可愛い…。先輩、次行きましょうか。」 「うん…。」 ジュースを飲み干してグラスを返却してから、俺たちは次の区画に移動した。

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