194 / 1069
第194話
初めて知る城崎の弱点。
こいつは何も恐れるものなどないと思い込んでいた。
なのに目の前には目を潤ませて助けを求める宛 ら仔犬のような城崎。
母性?俺の場合は父性?が擽られて堪らない。
「大丈夫だって。蝉から俺たちに寄ってくること滅多とないだろ。」
「で、でも…っ、こんなに鳴いてるってことは何十…、いや、何百匹…、うっ、気持ち悪………」
数を想像してパニックになったのか、城崎は落ち着きがない。
流石に可哀想になってきて、近くに見えたログハウスに避難することにした。
「すみませーん。」
「お。ものづくり体験のお客さんかい?」
「え?」
扉を開けると、少し年老いた夫婦と、あと若い女性グループやカップルが数組何かを作っていた。
もしかして、ここが石鹸とか作れるって言ってたものづくり体験の場所?
城崎も小屋に避難してからは顔色が戻ったし、予定通りここでものづくり体験しちゃうか。
「はい。お願いします。」
「じゃあこっちにどうぞ。」
おじさんに案内され、城崎と隣同士で席に着く。
アロマを焚いているのかいい匂いがして、すごくリラックスできる。
「何を作りたい?最近人気なのはハーバリウムだよ。」
「ハーバリウムって聞いたことはあるんですけど、あんまりイメージわかないです。どんなのですか?」
「元の意味は違うんだけど、最近言われているハーバリウムってのは鑑賞目的のものでね、ガラスの小瓶に花が入ってるインテリアみたいなものだよ。こんな感じの…」
「あぁ、それなら確かに最近よく目にしますね。」
おじさんが見本を出してくれたそれは、たまに女性社員がデスクに置いていたりするのと似ていると思った。
石鹸とかもいいなって思ってたけど、これなら消耗品じゃないから城崎との思い出が形に残る。
「じゃあこれ、作りたいです。」
「よし。じゃあ準備してくるね。待ってな。」
おじさんが準備をしに奥へ行ってしまった。
城崎の顔色は戻ったものの表情はまだ曇っていて、可愛くてついつい頭を撫でてしまう。
甘えて擦り寄ってくるのがこれまた可愛い。
「城崎、大丈夫?」
「…………まぁ、今はとりあえず。」
「そんな嫌いだったのか。」
「先輩は大丈夫なんですか……?」
「蝉なんて子供の頃から耐性あるしな。ゴキブリも実家では俺が処理係だったし。」
気持ち悪いことは気持ち悪いが、震えるほど無理なわけではない。
城崎の怖がり方が女の子そのもので本当……、
「可愛いな…。」
「うっ……。格好悪くてすみません…。」
「褒めてるんだけど?まぁ、その二つからなら守ってやれるよ(笑)」
「先輩、好き…。」
笑って背を叩くと、城崎は俺の腕に寄りかかった。
数分待っていると、おじさんがハーバリウムを作るセットを持って戻ってきた。
おじさんの教えに従いながら真剣に作業に取り組むと、1時間くらいでいい感じのハーバリウムが完成した。
「いい感じのが出来上がりましたね。」
「職場のデスクに飾ろうかな。」
「俺も置いていいですか?」
「やだよ。女の子たちにバレたら俺が殺される。」
城崎の表情もすっかり明るくなっており、やや暑さが落ち着き蝉の声がマシになってきた今のうちにこの区画を抜けることにした。
ともだちにシェアしよう!