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第197話
「あー……。早く先輩のこと抱きたい。ねぇ、先輩。このまま宿向かいませんか?」
「駄目。吊橋行くって約束じゃん。」
「そうですけど……。あーーー。」
結局あのあと冷房が効きすぎてくしゃみをした俺の体調を心配した城崎は、その先をすることを諦めた。
そして頭を冷やした城崎は、下の熱も冷やすべく散歩に行った。
とどのつまり、城崎は興奮した熱を発散できずに次の目的地へ向かっている。
吊橋は絶対行きたいと思ってた所だし、城崎には悪いけど譲れない。
「先輩、ホテル寄りません?」
「嫌。日が暮れちゃうじゃん。」
「今日の先輩、いつもに増して頑固…。」
「今日の城崎、いつもに増して性欲強いよな。」
そう返すと城崎は言い返す言葉もなく黙ってしまった。
気持ちはわからなくもない。
初めての二人だけの旅行で気持ちが昂っているのだろう。
出張とは違って、仕事抜き、プライベートで二人きりなんだから。
俺だってすごく楽しみだったし、城崎とイチャイチャする気満々だったけど、でも観光とそれはまた別じゃん?
観光は観光で楽しみたい派なんだよ、俺は。
「着きましたよ。」
「え、もう?」
「俺はすごく長ーく感じましたけど。」
「悪いって。これで許して。」
拗ねる城崎に顔を近づけ、頬にキスをした。
もちろん城崎はそんなんじゃ足りなくて俺の唇にキスしようと顔を寄せてきたが、俺は両手でそれを阻止した。
「続きは夜な。」
「そんなぁ…」
「ほら、早く行くぞ。」
俺は助手席から降り、城崎が降りてくるのを待つ。
渋々運転席から降りてきた城崎は、大きく伸びをして俺の隣に来た。
「早く観光して、早く宿に行きましょう?」
「エロいことばっか。高校生かよ?」
「大好物を目の前に待てを喰らった俺の気持ち、先輩絶対分かってない。」
文句を言ってぷぅっと頬を膨らませる城崎。
なんでそんな不機嫌なわけ?
せっかくの旅行なのに……。
「俺だって城崎とイチャイチャしてぇよ。したいけど、それよりももっと、二人の思い出作りたいんだよ…。付き合ってくれたっていいじゃん…。」
俺だけが思ってるのかな?
城崎はやっぱ俺の体が目的だったのか?
そんなこと思い始めたら泣きそうになって、どんどん声が小さくなった。
「先輩、ごめんなさい!」
「………?」
「俺も先輩との思い出、たくさん欲しいです。目の前の欲望にばっかり目が眩んでました。すみません。」
「城崎……」
「もっとたくさん先輩を知って、もっといろんな二人の思い出作るための旅行なのに…。ごめんなさい。」
ギュッと抱きしめられて戸惑ったが、周りに誰もいないことを確認して、俺も遠慮なく城崎の背に腕を回す。
「馬鹿……」
「はい。俺が馬鹿でした。」
「言っとくけど、俺だって城崎とえっちしたいんだからな…。」
「………我慢効かなくなるんで、誘惑は控えてもらっていいっすか。」
「うるせぇ、バーカ。」
しばらく無言で抱きしめあって、仲直りした俺たちは吊橋を目指して歩いた。
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