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第198話

到着して目の前に見えるのは、断崖(だんがい)の上に架けられた長い吊橋。 下は荒波が打ち寄せていて、波の激しい音が響く。 「城崎…、ちょっと怖いかも……。」 高所恐怖症というわけではないが、吊橋っていざ渡るとなるとすごく不安になる。 何の躊躇(ちゅうちょ)もなく吊橋を渡ろうとする城崎の手を掴んで、俺はその場でしゃがみ込んでしまった。 「先輩、大丈夫。ここ観光スポットだし、そんな簡単に崩れないですよ。」 「で、でも…っ」 「後ろに他の人来ちゃいますよ?ほら、俺の腕掴んでていいですから。」 城崎が優しく俺に微笑んで、俺の胸がキュゥっと締め付けられた。 城崎の腕をホールドし、勇気を出して一歩踏み出す。 「ぅわっ!こ、怖っ!ちょっと揺れてない?」 「そりゃ吊橋なんで多少は。」 「落ちる?!」 「落ちないですってば(笑)まぁ、落ちる時は俺も一緒なんで安心してください。」 何度も安全確認をしたり、問いかけたりと口が止まらない俺の様子に城崎は笑っていた。 「下見てもいい?」 「怖いのに?」 「だって有名なサスペンスの舞台なんだろ、ここ…。見ときたいじゃん…。」 「後悔しても知りませんよ?」 城崎の腕を掴みながら、そっと吊り橋の外に顔を出し下を覗き見る。 いや、あー、うわ。 「見るんじゃなかった………。」 「ふっ…、あははっ!先輩…っ、可愛すぎる……(笑)」 城崎は子鹿のように足をがくつかせる俺を見て、笑いを(こら)え切れていない。 自分でもツッコミたくなるくらい震えてて、めちゃくちゃ恥ずかしい。 橋の中央でしゃがみ込む俺を、城崎はゆっくり待った。 「先輩、今絶対立った方がいいですよ。」 「え…?」 「夕陽、めちゃくちゃ綺麗なんで。」 城崎にそう言われて、俺は勢いよく立ち上がった。 吊橋から見える大パノラマのオーシャンビュー。 水平線に夕陽が沈んでいく瞬間だった。 「綺麗……」 「はい。でも沈み切る前に駐車場戻らないと。危ないので。」 「写真撮りたい。ちょっとだけ待って。」 俺はスマホのカメラを起動して、その美しい景色を画面に収めた。 また一つ、城崎との思い出が増えて思わずにやけそうになる。 「先輩、行きましょう。」 「おう。…って、うわ!怖いって!」 やっと吊橋にも慣れてきて普通に歩けそうだったのに、城崎が走るもんだから俺はまた足がすくんだ。 結局俺のペースに合わせて吊橋を渡り切った。 車に戻る頃にはすっかり陽は沈み、辺りは暗くなっていた。

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