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第206話
朝食を終えて部屋に戻り、出発の準備を終わらせたのはチェックアウトの丁度10分前だった。
「結構ギリギリでしたね。」
「危なかったな。」
初めて経験したヴィラともこれでお別れ。
今日は西伊豆の方を観光して帰る予定だ。
「ヴィラって初めてだったけど、結構いいな。」
「露天風呂とかは置いといて、同棲したらこんな感じですかね?」
「毎日あんなにヤッてたら身体もたねぇよ。」
まぁ毎日じゃなくてももたないけど。
精力ドリンク様様だ。
「そう言えば先輩。」
「ん?」
「これ、捨てるの忘れてましたよ?」
「!!!」
城崎が笑顔で俺に見せつけたのは昨日飲んだ精力ドリンクの空き瓶。
なんで…?!
部屋のゴミ箱に捨ててバレたら恥ずかしいから、わざわざ家で捨てようと思って鞄に入れたのに!!
「いつ俺の鞄触った?!」
「さっき先輩がトイレ行ってる間。」
「なんで!?」
「昨日先輩やけにパワフルだったから。寝室来る前もなんか隠し事してましたし?秘密があるのかな〜って。」
穴があったら入りたいとはこのことだ。
恥ずかしい。マジで恥ずかしい。
もう城崎の顔見れねぇ……。
「せーんぱい♡俺嬉しかったですよ?これって先輩が俺のこと喜ばせようとしてくれたって解釈でいいですよね?」
「…………」
「日に日に先輩のこと好きになってます、俺。」
「………引いてない?」
「まさか。あ、そうだ。出発前にキスさせてください。」
城崎は俺の顔を引き寄せ、唇を重ねた。
味わうような濃厚なキス。
リップ音を立てて離れていき、俺は照れ隠しで城崎に抱きつきながら言葉を発した。
「今日はどこ行くんだ?」
「んーとね、俺が行きたかったところと、あと一つはクルージングです。」
「楽しみ。」
「船酔いとか大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。」
チュッ、チュッと軽い口づけを交わして、ヴィラを出た。
精算はもう済ませているから、ヴィラの鍵をフロントに渡して車へ向かう。
「今日も晴れて良かったですね。」
「そうだな。すげぇいい天気。」
「ドライブ日和。ちょっと眩しすぎますけどね。」
いや、城崎、お前の方が眩しい…。
なんてくさいセリフは口に出さないでおく。
車に乗ってシートベルトを着け、エンジンをかける。
城崎はスマホを車に連動させて、俺の好きな曲を流し始めた。
サングラスをかけた城崎の横顔は相変わらず格好良くて、俺は曲を口遊 みながら運転する城崎を見つめていた。
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