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第207話
夜ほとんど眠れなかった俺はまた寝てしまい、城崎に起こされて目を覚ます。
どうやら目的地に着いたようだ。
「ほんっっとごめん!城崎、暇だったよな?」
「いえ、俺が無理させましたし…。」
「城崎疲れてんのに…。あぁ、俺の馬鹿。昨日も同じこと言った気がする…!!」
俺なら二人でドライブして、自分が運転してて隣で寝られたら絶対嫌だ。
自分がされて嫌なことしてしまう俺って最低すぎる。
「本当ごめんな……。」
「そんな謝らないでください。だって先輩、想像してみて?彼女とドライブ行って、彼女が疲れて助手席で寝てて怒りますか?」
「…………怒らない。むしろ微笑ましい。」
「一緒ですよ。俺にとって先輩はそういう存在。」
たしかに男二人でドライブ行って寝られたら腹立つかもしれないけど、恋人が寝てても腹は立たないかも?
逆に俺が運転してて城崎が隣で寝てたら………。
うん、腹は立たない。疲れてるだろうな、くらいにしか。
「そっか…。」
「分かったら目の前のこと楽しみましょう?あ、その前に先輩チャージさせてください。」
駐車場といってもそこそこ人がいるため、城崎はほんの一瞬だけ俺を抱きしめて車から降りた。
俺も慌てて車を降りる。
チケット売り場で遊覧船チケットを買い、出港時間まで適当に暇を潰した。
「青の洞窟だって。楽しみだな。」
「ちゃんと一眼レフ持ってきましたよ。」
「じゃあ俺はスマホカメラで撮るわ。」
「流石に俺が勝ちますね、それは。」
「最近のスマホ舐めちゃいかんぞ。」
城崎にカメラを向けると、レンズや見え方を確認しているだけなのに絵になった。
いい被写体だな、本当。
「何撮ってるんですか…」
「いいじゃん、減るもんじゃあるまいし。」
「じゃあ俺も先輩の写真撮ってもいいですか?」
「それはなんか恥ずかしいから嫌だ。」
「なんで?先輩だけずるい。」
「城崎と違って、俺は被写体に向いてないから。」
城崎にレンズ越しに見つめられ、俺は思わず両手でそれを塞ぐ。
イケメンにはわからない悩みだ。
「言っておきますけど、先輩相当顔良いですからね?」
「どの口が言ってんだ。」
「俺、先輩の顔めちゃくちゃ好きです。」
真っ直ぐ見つめられてそう言われると、さすがに照れる。
こいついちいちストレート過ぎるんだよ…。
嬉しいけど、心臓に悪い。
俺が黙ると、しばらく沈黙が続いた。
こういう時間も悪くないけど、なんかそわそわしてしまう。
周りからの視線だとか、あと向こうの感情が読みにくくて。
しばしの沈黙の後、それを打開したのは城崎だった。
「暑いっすね…。」
「そうだな…。」
「汗ってエロいですよね。」
「真顔で何言ってんだ、馬鹿。」
「興奮しません?」
「ぷっ…、あはは!お前本当顔に似合わず…っ(笑)」
こんな爽やかな顔しといて、実は男子高校生みたいに変態じみたこと考えてるギャップが面白くて声をあげて笑った。
笑う俺を見て、城崎も嬉しそうに微笑む。
もしかして、照れて恥ずかしがってる俺を笑わせようとしてくれたのかな、なんて。
「あ、もうこんな時間だ。先輩、行きましょう。」
城崎は時計を見て席を立った。
俺があげた腕時計。
この旅行は俺もつけてるからお揃いで、何だかいつもに増して嬉しく感じた。
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