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第208話
乗船場で小さなクルーザーに乗り込む。
船なんて何年ぶりだろう?
三年くらい前に上司との付き合いで海釣りに行ったのが一番最近かもしれない。
俺たちと他数組が乗り込み、間も無くクルーザーは出発した。
「楽しみ!写真、勝負な?」
「誰に審査してもらうんですか?」
「帰ったら涼真にしてもらおうぜ。」
海風を全身に浴びながら、船は前へ前へと進む。
城崎は隣に立って、俺の顔を覗き見た。
「何…?」
「勝負ってことは、勝ったら何か貰えるんですよね?」
「えっ。うーん……、飯奢るとか?」
何も思い浮かばなくてそう言ったけど、城崎は何故かムッとしている。
どうやらご期待に添えなかったようだ。
「何がいいんだよ…?」
「負けた方は勝った方のお願いを何でも聞くってのはどうですか?」
「えー…。おまえ何かヤバいお願いしてきそうじゃん。」
「それにしても飯奢るはないですよ。」
ないかぁ…。
でも恋人同士で勝負って何が妥当な景品なんだ?
頭を悩ませていると、城崎が耳打ちしてきた。
「俺はえっちなご褒美が欲しいです。」
「ぶっ…、馬鹿!何言ってんだよ?!」
「そうじゃないと本気になれません。」
「…………わかったよ。」
勝負なのに手を抜かれたらなんか嫌だ。
俺は渋々城崎の申し出を受け入れた。
「先輩は?どんなご褒美がいいですか?」
「んー…。一週間城崎が家事代行とか?仕事しながらそれはキツイか?」
「全然。むしろ先輩の家に毎日行けるならご褒美です。」
「でもキスとかそういうのは全部俺の気分。城崎からはダメ。これでどう?」
「……………受けて立ちますよ。その代わり俺が勝ったら俺のお願い聞いてくださいね?」
「おっしゃ。やるか!」
お互いにやる気を出して船首に立つ。
今日は天気もいいし、富士山も拝めるらしい。
撮影スポットはその富士山が見えるところと、青の洞窟がメインになるだろう。
これでも昔は写真褒められたことあるし、自信がないわけじゃない。
昔つっても小学生くらいの時だけど……。
「間も無く右手側に富士山が見えます。皆様ぜひご覧ください。」
添乗員が乗客に知らせ、アナウンスを聞いた乗客みんながこぞって船の右側に集まった。
岩場を抜けると水平線の向こうに、綺麗な富士が現れた。
「すご…。綺麗……。」
一瞬シャッターを切り忘れたが、思い出してスマホをポケットから取り出してカメラを起動した。
城崎は少し人混みから離れたところでシャッターを切っている。
俺にはその姿がどうも格好良く見えて、思わず城崎に向けてシャッターを切っていた。
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