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第209話
水平線の先に浮かぶ富士を堪能した後、船は青の洞窟へと向かった。
海は透き通るように綺麗で、青色にキラキラ光っている。
洞窟にある上の空洞から光が差し込み、何とも幻想的な景色だ。
カメラを構えようとすると、城崎に腕を引かれ、抵抗できずに胸の中へ飛び込んだ。
「何……?」
「こんな綺麗な景色、一緒に見なきゃ勿体ないです。」
「うん……。」
周りの乗客もこの景色に夢中で、誰も俺たちのことなんか見ていない。
少しくらい引っ付いていたって、怪しまれないよな?
「連れてきてくれてありがとう。」
「どういたしまして。俺もこんなに綺麗だなんて思ってなかったです。」
「はぁ……。なんか、言葉に出来ないくらい綺麗だな…。」
思わずうっとりため息をついてしまうほどに綺麗だ。
まるでここだけが切り取られたみたいな別空間みたいに。
「皆様、そろそろお時間ですので港の方へ戻ります。」
「えっ、もう?!」
惚 けているといつのまにか結構時間が経っていたらしく、添乗員の声でハッとした。
船は洞窟内を旋回 し、真っ直ぐに港へと向かっていく。
1時間くらいのクルーズだったが、体感としてはあっという間だった。
船から降りて、身体を思いっきり伸ばす。
「気持ちよかったですね。」
「あぁ、ほんとに……、って、あ!!洞窟の写真撮るの忘れてた……。」
「ですね。」
「まぁ、いっか!城崎も撮ってなかったし、勝負は富士山で決まるってことだな。」
洞窟内で城崎がカメラを構えている様子はなかった。
もし青の洞窟の写真が撮れてたら絶対俺の勝ちだったのに…。
「俺、勝つ自信あるぞ。」
「じゃあ俺は禁欲覚悟しとかなきゃいけないんですね。」
「おう。なんなら城崎が勝ったらお願い二つ聞いてやってもいいくらいには自信がある!」
「へぇ〜?じゃあその条件追加してくださいよ。」
俺が言い張ると、城崎は挑発に乗ってきた。
意外と負けず嫌いなとこあるからな、城崎は。
可愛い奴め…。
「いいぜ。その代わり俺が勝った時はさっきの条件になんか追加するからな?」
「何して欲しいんですか?」
「ん〜……、デート?とか?」
「それも俺にとってご褒美なんですけど。」
城崎は笑っているが、そりゃあ恋人なんだからデートしたいのは当然だろう。
何なら別にセックスだって嫌じゃないし、加減をしてほしいだけで。
あいつは勝手に禁欲だと思ってるみたいだけど。
それに、城崎の願いなんて絶対ろくなことじゃないだろうから、勝てる勝負じゃないと挑む気なんてさらさらない。
俺はそれくらいいい写真撮れたっていう自信がある。
「柳津さんにいつ見てもらいますか?」
「あー、そうだな。涼真の誕生日は?会社以外で会う予定今のところそれくらいだし、その日じゃ駄目?」
「何それ、聞いてないんですけど。」
「城崎も呼ぼうって話してたんだけど、言ってなかったっけ?」
「聞いてないです。でもちゃんと俺も誘ってくれる気だったんなら許します。」
城崎は少しムッとしていたが、そんなに機嫌を損ねたわけではなさそうだ。
涼真の言う通り、城崎も呼ぶ予定にしててよかった。
「そういえば、城崎。西伊豆で行きたいとこって、ここじゃなかったらどこなんだ?」
車に乗り込んでそう聞くと、城崎は俺を見てにこりと笑った。
「着いてからのお楽しみです。」
城崎は鼻唄を歌いながら上機嫌に車を出発させた。
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