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第210話

車を停め、着いた場所。 「なぁ、おい……。」 「なんですか?」 「男二人でここは恥ずかしいだろ……。」 城崎が俺と行きたかった場所は"恋人岬"らしい。 もちろん周りはみんな男女の若いカップル。 俺たちは浮いている。 「鐘を鳴らして愛を確かめ合いましょう。」 「もう十分確かめ合ってんだろうが。」 「え〜。お願いです!一緒に鐘鳴らしましょう?」 「女子か!」 この旅行で素敵なところにたくさん連れて行ってもらったし、城崎のお願い聞いてやりたい気持ちも山々だけど、さすがにここは抵抗ある。 俺が(かたく)なに車から降りずにいると、駐車場から恋人岬の方へ女性二人組や家族連れも向かっていった。 「ここ別にカップルだけが行く場所じゃないんですよ。絶景だから観光スポットとしても知られてるんです。」 「そうなの……?」 「はい!だから行きましょう?俺、先輩と行きたい。」 仔犬のような瞳で見つめられたら堪らない。 俺は渋々車から降り、城崎が持ってきていたキャップを深く被った。 「先輩、顔隠すの?じゃあ、手繋いでいいですか?」 「何でだよ。」 「ボーイッシュな女の子と思ってもらえたら解決です!」 「どこにこんなガタイいい女の子がいるんだよ。俺のことになるとIQ下がるのやめろ!」 とは言ったものの、城崎に手を繋がれるのが嫌なわけじゃない。 人が見てない時だけ指を絡めて、人が見えたらすぐに指を(ほど)く。 「なんだかイケない関係みたいですね?ドキドキします。」 「世間的に見てイケない関係だろ…。」 やっと展望デッキが見えてきた。 ここまでの道のりが割と長くて、こんな夏場に来たら女の子はバテちゃうんじゃないかと思ってしまう。 「先輩、あれ見ましょう?」 「どれ?」 「こっちです。」 脇道を通って連れてこられたのは変わったオブジェが置いた場所。 「何これ?」 「その穴覗いてみてください。」 「………わぁ、富士だ!写真撮っていい?」 「どうぞ。」 ドーナツ型のオブジェの空洞からは綺麗な富士が見えるようになっていた。 俺はスマホのカメラを起動して何枚か写真を撮る。 「本当に観光スポットじゃん。」 「だから言ったでしょ?じゃあメインのラブコールベルに行きましょう。」 「さすがにそれは気が引けるわ…。」 「とりあえず行きましょうよ。ここ行かずに帰るなんてあり得ないでしょ。」 「そうだけど…。てか、階段ヤバくね?」 展望デッキに続くのはかなり長い階段。 城崎に腕を引かれて、その険しい階段に足をかけた。

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