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第211話

「む……、無理……。」 「愛の試練ですね。」 「女の子悲鳴あげるぞ、これ……。」 やっと辿り着いた展望デッキからは美しい景色が広がっているが、正直それどころじゃない。 こんな真夏に、こんなエグい階段登らせるバカいる…? しかも、俺アラサーだぞ……。 「おんぶした方がよかったですか?」 「ばか言え。」 彼女をおぶって階段を登る青年たちを見ながら、城崎は俺に聞いた。 さすがに年下の彼氏におんぶしてもらうほど、体力が衰えているなんてことはない。 ムードを破壊するほど汗をかいた俺はベンチに腰掛けた。 「疲れましたね。」 「もう動けない。」 「それは困ります。今から愛を誓うのに。」 「本当にやんのかよ?」 「やりますよ。」 城崎は自販機で水を買ってきて俺に手渡した。 250ml一気に飲み干すと、城崎はくすくす笑いながら俺の隣に腰掛ける。 「先輩が来てくれてよかった。」 「城崎って、神話とか噂とか信じるタイプなんだ?」 「だって……、どう足掻こうと俺も先輩も男で、先輩は元々女性が好きなんですから。こういう俗説に縋りたくなるくらい、俺は不安なんですよ。」 急に弱々しくなった城崎の声。 ここにきた理由。 城崎のこと、俺なりに愛してるし、城崎の愛にも応えているつもりだった。 俺の愛は足りていなかったのか? 城崎の手を強く握ると、城崎も俺の手を握り返す。 「先輩は何も悪くないですよ?先輩も俺と同じ気持ちでいてくれてるって伝わってきますし、今の関係に満足してないわけじゃないんです。」 「じゃあ何で?」 「俺の問題です。………俺はずっと先輩と人生を共にしたいから。将来のこと考えた時、いつか先輩は俺と別れて、素敵な女性と結婚して子供を産むのかなって。どうしてもそんな未来が脳裏をよぎってしまうときがあるんです。」 そう言葉を(つむ)いだ城崎は、とても悲しい表情をしていた。 「馬鹿だな…。」 「え?」 「俺だって、いつか城崎が離れていくんじゃないかって不安になる時あるよ。」 「そんなこと…!」 「ないとは言い切れないじゃん?俺だって、千紗と付き合ってた時は生涯こいつを守る〜とか思ってたよ。でも今はこうやって性別の壁を超えて、城崎と付き合ってるだろ?結局なるようにしかならないって。」 「…………。」 「重く考えすぎなんだよ。せっかく両想いなのに、先のこと考えて不安になるの勿体なくね?」 「………先輩は、大人ですね。」 「伊達(だて)に年食ってるわけじゃねぇからな。」 城崎の表情から少し不安が消えた気がした。 本音を話してくれてよかった。 俺は城崎のこと、大切に思ってる。 部下としても、恋人としても。 「よっしゃ。鐘鳴らしに行くか!」 「え?いいんですか?」 「ほら、さっさと行くぞ。」 「…はいっ!」 俺が鐘の方へ歩みを進めると、城崎も嬉しそうに俺の隣を歩いた。

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