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第212話

鐘の前に2人で並ぶ。 「綾人さん、綾人さん、綾人さん……」 城崎は俺の名前を呟きながら、鐘を三回鳴らした。 俺もそれに倣って見様見真似でやってみる。 「城崎、城崎、城崎」 恥ずかしいから下の名前では呼べなかったけど、城崎はとても嬉しそうだった。 勿論周りからは好奇の目で見られている。 俺たちがカップルだと勘付いている人もいれば、独り身が神様に祈りにきたと勘違いしている人もいると思うが…。 でも城崎の表情見りゃ、勘違いしてた人でも気付きそうなもんだ。 それくらい城崎の俺を見る目は甘ったるい。 「先輩、証明書も書きませんか…?」 俺に断られるかもしれないと、恐る恐る聞いてくる城崎。 もう鐘まで鳴らしたんだし、やりたい事全部付き合ってやろうと頷くと、子供のような無邪気な笑顔で俺の手を引いた。 結局、証明書に加え、絵馬も書いた。 どこのバカップルだ…。 受付の人はあまり偏見がない人のようで、俺たちの関係にとやかく言ったり好奇の目で見るような様子はなかった。 思ったよりもヒソヒソ話されたりしないのも、城崎が格好良くて何とか絵面が保てているからだと、俺はそう思ってる。 絵馬を結んで、駐車場に向かった。 「先輩、ありがとうございます…。」 「何が?」 「俺のわがまま、付き合ってくれて…」 「恋人なんだから当然だろ。」 思ったままのことを伝えると、城崎は歩みを止めた。 「何?まだしたいことあった?」 「そうじゃなくて……。すみません、キュンときちゃって…。」 「へ?」 「先輩が格好良すぎて、心臓が爆発しそうです…。」 城崎は俺を力いっぱい抱きしめ、しばらく離してくれなかった。 旅先だし、たまたま人が通ってないから良いものの、城崎はこれから我慢を覚えさせなきゃ駄目だな。 同僚の俺たちがこれから二人で生きていくためには、世間体を気にする必要がある。 職場が違えばまだマシだが、職場が違ったとて社会的不利になるのは目に見えている。 「城崎、だーめ。」 「………」 「そんな拗ねた顔しても駄目。今日俺の家泊めてやるから。それまで我慢しろ。」 「……分かりました。」 城崎は名残惜しそうに俺から離れ、ある程度の距離を保って車に戻った。 西伊豆から東京へ帰るまで約3時間。 城崎の言葉に甘え、俺は道中爆睡し、いつのまにか東京に帰ってきていた。 「お疲れ様。運転ありがとな。」 「どういたしまして。はぁ〜…、非日常から日常に戻ってきちゃいましたね…。」 「今日はちゃんと寝ろよ?ベッド譲ってやるから。」 「先輩も一緒に寝ましょうよ?」 「俺のベッド、シングルだからゆっくりできねぇだろ。」 「どんなに狭くても、先輩と一緒に寝たら安眠できますし疲れも取れます。駄目ですか?」 「……わかったよ。」 夜は外食にしようと、適当に目に入った店で済ませ、俺の家へ帰宅した。

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