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第217話
城崎にお預けを食らって早4日。
いよいよ今日は花火大会だ。
大抵迎えに来てくれるのに、今日の約束は神社前。
俺は一人で神社まで行かないといけない。
なんかこの年で一人で甚兵衛着て人前歩くのって、結構恥ずかしいと思わないか?
しかも城崎はあのとき何も買ってなかったし、きっと私服なんだろうな…。
俺だって城崎の和装見たかった……。
「これでいいかな……?」
いつもみたいな髪型じゃ甚兵衛に似合わないと思い、ワックスで毛先を遊ばせて、前髪は少しまとめてピンで留めた。
下着はローライズタイプのボクサーパンツを履いて万全を期す。
下駄を履いて家を出ると、なんか本当、恥ずかしすぎて上を向けなかった。
しかもここから少し離れた花火大会だから、この辺で浴衣や甚兵衛を着てる人なんてほとんどいない。
知り合いに会いたくなくて、コソコソと駅まで向かい、電車に乗るとやっとちらほら浴衣や甚兵衛を着てる人が目につき始めた。
とは言っても、大学生くらいの若い集団やカップル、あとは子連れとか…。
男一人でこんな格好してる人はいなかった。
花火大会が開催される神社の最寄駅で降りると、人が多くてなかなか前に進めなかった。
「あっつ……」
人混みで揉みくちゃになりながら駅を出る。
歩いて5分くらいのところに神社へ続く階段が見えた。
この階段の下で待ち合わせのはずなんだけど……。
きょろきょろ辺りを見渡しても、人が多すぎてなかなか見つけられない。
もしかして約束の時間とか場所とか間違えたのかと不安になってくる。
「うわっ…!」
ドンっと後ろから人に押され、躓 きそうになった瞬間、腕を引かれて抱き寄せられた。
「先輩、大丈夫…?」
「し、城崎…!?」
嘘だ…。こんな少女マンガみたいなことあるか…?
ていうか、城崎、浴衣じゃん…!
グレーの浴衣を完璧に着こなす俺の自慢の恋人。
狡い。浴衣着て来るなんて聞いてない。
「先輩?」
「浴衣……」
「あぁ、これ?先輩にびっくりしてほしくて。どう?似合ってますか?」
「………すげぇ似合ってるよ。」
恥ずかしくて城崎の胸元に顔を埋める。
人混みに乗じて抱き合ってるけど、城崎を狙ってる女の子からすげぇ視線を感じる。
離れないと…と思っても、城崎が離してくれなかった。
「先輩、そろそろお祭り行きましょうか。」
「お、おう…」
解放されたと思ったのも束の間、城崎は俺の手をぎゅっと握り、恋人繋ぎにして階段を上り始めた。
混んでるから気にしてる人なんて少ないと思うけど…。
それに、わざわざ会社からも離れた場所にしたし…。
「今日は周りの目は気にせずに楽しみましょうね。」
「うん…」
俺は城崎の手を握り返し、離れないように隣を歩いた。
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