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第222話

体が痒くて目を覚ます。 夏だから夜明けも早くて、外は薄明るいがまだ5時だ。 城崎は気持ちよさそうに眠っているから、起こさないようにベッドから上がり、痒み止めを持って洗面所へ向かう。 いろんなとこ痒いから鏡見ないと塗れないし。 鏡の前で服を脱いでギョッとした。 「なんだこれ?!!」 「先輩、どうしました?!」 俺が叫ぶもんだから、城崎が飛び起きて洗面所のドアを開けた。 いや、だって、こんな…。 「城崎……、おまえ…!!」 「あ、あれ〜?痒み止め寝る前に塗っておいたんですけど…。」 「そういう問題じゃねぇだろ!!」 服を脱いだ俺の体には無数の(あか)い痕がくっきりと残っていた。 もはや蚊に刺されたのかキスマークなのかわからない。 まさかと思いズボンを下ろすと、案の定太腿にもびっしりとキスマークが残っていた。 「いくらなんでも付けすぎだろ!」 「だって…。先輩のこと大好きだから…。」 城崎は反省した仔犬のように耳と尻尾を垂らして俺に許しを()いた。 まぁ、キスマークって独占欲の表れともいうし…。 って、ダメダメ!また(ほだ)されそうになってる!! 「そんなシュン…って顔しても無駄だからな!しばらくお触り禁止。」 「い、いつまでですか…?!」 「一週間。」 「そんな殺生(せっしょう)な…!俺ほとんど見えないところにしたんですよ?」 たしかに脱ぐまで気づかなかったけど。 城崎なら見えるところにつけそうだけど、我慢してくれたってことか…? 「………じゃあ、三日。」 「もう一声!」 「調子乗んな、馬鹿。」 「いてっ」 その手には乗らないぞと頭を小突く。 俺に触れられない城崎は「拷問だ…。」と言いながら、洗面所を後にした。 やりすぎたか…? でもこんなにキスマークつけるなんて常識外れだろ。 痒み止めを塗って洗面所から出ると、城崎は帰る準備をしていた。 「もう帰んのか?」 「はい。」 「そっか…。」 今日は一日中城崎と一緒に居られると思っていた俺は、あまりにも早い城崎の帰宅宣言に肩を落とした。 「言っておきますけど、俺だって今日は先輩と過ごしたかったんですからね。」 「じゃあなんで…?」 「なんでって……。先輩と一緒に居て触らない自信ないですから。自分から言い出しておいて、随分酷いこと言うんですね、先輩。」 「結局体なのかよ?」 「はぁ?!好きだったら触りたいと思うでしょ、普通。」 あ……、怒ってる……。 城崎の声色の少しの変化と少し棘のある言い方に俺はすぐに気がついた。 「城崎、その……、ごめん。」 「………」 「触っちゃ駄目っていうの、撤回するから…。だから、帰らないでほしい…。」 玄関で靴を履く城崎に後ろから抱きついた。 いつも優しくて甘い城崎が急に冷たくなると、一気に不安や寂しさが込み上げる。 しばらくの沈黙の後、城崎は俺の腕を解いてリビングへ踵を返した。

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