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第227話
週末の8月28日。
今日は涼真の誕生日だ。
「先輩、そろそろ柳津さん来る時間じゃないですか?」
「うん。なぁ、城崎〜、届かない……」
「はいはい。……てか、何で俺以外の男に準備頑張る先輩の手伝いしなきゃいけないんですか…。」
部屋の飾り付けをしていると、城崎は大きなため息をついた。
そんなに身長差があるわけではないが、俺より城崎の方が背が高いから、高いところに貼り付けたりするのは手伝ってもらっている。
なんなら、昼ごはんは俺が何品かピックアップして城崎に作ってもらって、ダイニングテーブルには涼真の好物が並んでいる。
「まぁ、今日は先輩にお願い聞いてもらうからいいんですけど。」
「え?」
「忘れたとは言わせませんよ。旅行で行ったクルーズの時の写真、今日柳津さんに見てもらう約束じゃないですか。」
「あー……、そういえばそうだったな。」
城崎はメモリーカードを俺に渡した。
勝負用の写真だけじゃなくて、旅行の思い出も詰まってるから、俺はケースに入れて大切にポケットにしまった。
「まぁ俺が勝つけどな。」
「何言ってるんですか。俺が勝ちますよ。」
「城崎に一週間家事させて、デートもするんだからな。」
「俺は勝っても負けても幸せってことですね。まぁ、勝って二つ、お願い聞いてもらいますけど。」
城崎は一体どこからこんな自信が湧いてくるんだろうか。
と言いつつ、俺も大層な自信だと思われてそうだけど。
「もうお願い決めてるんですよ。」
「ふーん。何?」
「内緒です。」
もう既に勝った気分の城崎の態度を見てムッとする。
城崎のお願いの内容とか、本当考えたくもない。
絶対俺が普段なら嫌がってやらないような内容を提示してきそうだ。
「よし。食事も準備できたし、飾り付けもできたし、あとは柳津さんがくるの待つだけですね。」
「うーん…、そろそろ来るはずなんだけど。」
時計を見ると12時前。
約束の時間は12時だから、そろそろ涼真が来るはずだ。
そう思っていた矢先、インターホンが鳴った。
「来た。行ってくる。」
「待って、先輩。俺が行きます。先輩はクラッカーでも準備してて待っててください。」
「わかった。」
別に迎えに行って戻ってくるくらいの体力はあるし、何で城崎が行くんだ?
と思いつつ、クラッカー鳴らしたいから城崎に言われたまま部屋で待機することにした。
「先輩、チュー。」
「んっ…」
城崎は出て行く前に俺にキスして行った。
夕方まで涼真がいるから、それまでの充電らしい。
不意打ちのキスにドキドキして、俺はしばらくその場で固まってしまったのだった。
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