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第230話

仕切り直して誕生日会を再開したいところなんだけど、城崎がなかなか帰ってこなくて不安が募る。 真夏の昼間だし、そんな遠くまでは行ってないと思うんだけど…。 スマホも部屋に置いて行ってしまって、連絡が取れない。 「悪い、涼真。ちょっと城崎探しに行ってもいい?」 「おう。俺も行こうか?」 「ううん。すぐ戻ってくるからここで待ってて。」 マンションから出て、コンビニまでの道を歩く。 正直城崎が行きそうな所に見当がついてるわけではない。 でも何となーく、いつも城崎と歩く道を歩いてみた。 城崎だったらどこに行くだろう? 案外、すぐ近くにいたりして。 俺はマンションに戻り、エレベーターのRのボタンを押した。 屋上なんて、物件見にきた時にチラッと見せてもらったくらいで、住んでから行ったことなんてない。 ドアを開けると生温い風と共に、微かに煙草の香りがした。 「城崎………」 手摺(てす)りに肘をつきながら煙草を吸っていたのは、紛れもなく城崎だった。 城崎が煙草を吸ってるところなんて、ましてや持っているところも今まで一度も見たことがない。 煙草は嫌いだけど、煙草を咥えている城崎はすごく綺麗だと思った。 「城崎。」 「…っ?!」 俺が来たことに気づいていなかったのか、声をかけると城崎は慌てて煙草を隠した。 「いいよ、隠さなくても。」 「だって先輩、煙草嫌いでしょ…?」 「ふふっ…、だから今まで吸ってなかったのか?」 「まぁ……」 城崎は煙草の火を消し、手摺りにもたれ掛かった。 俺が煙草嫌いって、どこで知ったんだよ(笑) 入社早々俺の嫌いなものを知ってたらしい城崎に、思わず笑ってしまった。 「もともと吸ってたの?」 「まぁ…、はい……。」 「今まで気づかなかった。」 「バレないようにしてたんで…。というか、先輩と出会ってからプライベートの付き合いくらいでしか吸ってなかったし…。」 城崎はばつが悪そうに、俺から顔を(そむ)けた。 別に悪いことではないと思う。 俺は好きじゃないし、恋人には長生きして欲しいから吸ってほしくないけど…。 「何で今日は?」 「………俺のせいで誕生日会台無しにしちゃいましたし、その……、先輩はもともと女性が好きで、男とは友達しかありえないって考えだったじゃないですか…。さっきみたいなことだって十分起こり得ることなのに、俺……」 「城崎は悪くないよ。俺の配慮が足りなかった。」 城崎を抱きしめて背中を撫でると、城崎は力強く俺を抱きしめ返した。 不安だったんだと思う。 きっと自分にイライラしたんだろう。 「涼真も反省してる。」 「…………」 「俺、城崎が本気で怒ってくれて、守ってくれようとして、正直嬉しかったし。」 「………先輩」 「それに新しい城崎も知れたし。なぁ、煙草うまいの?」 「美味しくないですよ。先輩は駄目。」 笑いながら聞くと、城崎はムッとした。 自分は吸うくせに、俺は駄目らしい。 背伸びして、ムスッとした顔の城崎にキスをする。 「ふっ…、苦……(笑)」 「だから言ったじゃないですか。」 「城崎、戻ろ?」 「うん……」 城崎の手を繋いで屋上を後にする。 いつも甘い城崎のキスは、初めてほろ苦い味がした。

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