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第243話
「おはようございます……。」
重だるい身体に鞭 打ちながら、昼休みが終わる頃に出社した。
同僚は皆んな、「寝坊?珍しいね。」なんか言って特に興味もなさそうだ。
唯一、俺の前に座る奴を除いては。
「望月さ〜ん、ねぇ、聞いてます?」
「うるせぇよ、ちゅんちゅん。」
ぴーちくぱーちく俺に話しかけ続けるちゅんちゅん。
だめだめ。耳貸しちゃ駄目だ。
「だって〜。本当は城崎さんとお泊まり会とかしてたんでしょ?いいな〜。俺も呼んでくださいよ。」
「してねぇって。何を根拠にそんなこと…」
「二人とも普段絶対寝坊したりしないじゃないですか!そんなお二人が揃って休みなんて、裏があるに決まってます!」
「おまえまだ入社して半年も経ってねぇだろうが。」
「他の先輩方からも情報収集済みです!!」
変なところで勘が鋭すぎる。
お揃いのボールペンも速攻バレたし…。
俺たちの関係がバレるのも時間の問題な気がしてきた。
「ねーえ!本当のこと教えてくださいってば〜!」
「うるさいな…。だから本当に…っ!」
思わず怒鳴ってしまいそうになる直前、俺のデスクにマグカップが置かれた。
珈琲のいい匂いだ。
「城崎…っ!」
「まぁまぁ先輩、これでも飲んで落ち着いてください。で、ちゅんちゅんは俺たちの何を知りたいの?」
珈琲を置いてくれたのは城崎だ。
焦ったりせず、落ち着いてちゅんちゅんの話を聞こうと素振りを見せる。
「何をって…。お泊まりです!お泊まり!狡いですよ!」
「何それ?先輩が言ったんですか?」
「俺、何も言ってねぇよ。」
城崎に聞かれて俺は否定した。
そしたら「そうですか。」なんて言って、ちゅんちゅんを鼻で笑った。
「何で急にそう思ったわけ?」
「だって…、二人とも遅れてくるなんておかしいじゃないっすか…。」
「俺は旧友とオールで飲んでたんだよ。久々に馬鹿したわ。先輩は?」
「お、俺は……」
咄嗟に何も思いつかなくて口籠ると、隣のデスクからアシストが飛んでくる。
「綾人は昨日俺と飲んでたんだよ。てか、俺が飲ませすぎた。アラーム掛けずに寝てたの放って帰っちゃったから。」
「え、そうなんすか…?」
「そうだよ。だから綾人も城崎も別の理由で、たまたま同じ日に寝坊したってこと。オッケー?」
「オッケー……です…。」
「はい、じゃあ仕事に戻りなさい。」
涼真のナイスアシストで、なんとかちゅんちゅんからの疑いが晴れた。
ちゅんちゅんが自分のデスクに戻っていったのを見て、俺の両隣に立つ城崎と涼真が同時にため息をついた。
「綾人、本当に嘘が下手だよな。」
「先輩は素直すぎるんですよ。それも可愛いですけど。」
「二人とも悪い…。助かった……。」
俺一人で対応したら、最悪の場合、全部バレてしまうところだったかもしれない。
二人に頭を下げると、次は城崎と涼真の言い合いが始まった。
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