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第248話

始業時間になりデスクへ戻ると、涼真が堪えきれずに俺の方を見ながら笑っていた。 「なんだよ……」 「プフッ…!さきちゃんね、いいじゃん、その呼び方。」 「よくねぇよ…」 「俺と職場で恋愛トークもしやすくなったわけだ?」 たしかに今までみたいにこそこそしなくても、城崎との出来事を話せば、みんなには架空の"さき"として認識されるだろう。 でも深追いされると"さき"はいないわけで、会いたいなんて言われた日にはどうしようもない。 出てくるのは、みんな知ってる城崎なんだから。 「彼女はいないってことにはできないのかな…。」 「もう勝手に言わせておけば?あの人たち、綾人が何言っても彼女いじりはするだろ。」 「えぇ……」 涼真の言う通り、千紗と付き合っている時からずっと彼女いじりが絶えない先輩たちだ。 今更何言ったところで、いるにしろいないにしろイジられることには変わりない。 否定することを諦めると、なんだか少し気持ちが軽くなった。 昼休みになり、いつも通り涼真と食堂に向かう。 「で、今日はさきちゃん手作りのお弁当なんだ?」 「ん。悪いかよ…。」 「あーあー、これ見つかったらまたいじられるぞ。」 「だから食堂来たんだよ…。」 食堂だったらあの上司は来ないし。 城崎に作ってもらった弁当を開けると、唐揚げやウインナー、サラダにオムライスまで入っていた。 「うわ、めちゃくちゃ美味そうじゃん。昨日飲み会だったし、弁当のためにわざわざ?」 「そうみたいだな……。」 「すげぇ手込んでるな。オムライスのケチャップ、ハートだし(笑)」 うん。すげぇ嬉しいけど、少し恥ずかしい。 俺の好物がたくさん詰められた弁当に、城崎の愛を感じる。 考えてみれば、初めての弁当だ。 「うま…」 「えー、俺も一口欲しい。」 「駄目。」 城崎が朝早くに起きて作ってくれていたことを知ってる俺は、一口たりとも他人にやるつもりはなかった。 前日の残り物詰めてくれるだけでも俺は嬉しいのに。 城崎も仕事なんだから、本当はもっとゆっくり寝て欲しいし、昨日みたいに前日が飲み会とかで残り物がないなら、別に無理して弁当なんて作らなくてもいい。 朝からそれを伝えたけど、せめて初めは頑張らせてくださいと譲らなかった。 「あー……、幸せ………。」 「本当、いい相手見つけたなぁ、綾人。」 「俺には勿体なさすぎて申し訳ない……。」 「まぁ向こうもすげぇ幸せそうだし、いいんじゃね?」 「そうかなぁ…?」 幸せすぎてバチが当たるんじゃないかとか、城崎は本当に男の、しかも俺でいいのかって何度も何度も不安になる。 本人に聞くと怒られてしまうから、時々一人でネガティブになってしまったりするものだ。 弁当を食べていると、スマホがメッセージを受信して点灯した。 『今日こそ親子丼です。一緒に帰りましょうね。』 城崎からのメッセージだ。 昨日俺が言ったこと、ちゃんと覚えててくれたんだ。 思わず顔を綻ばせると、涼真がニヤニヤ顔でイジってくる。 「愛しのさきちゃん?」 「うっせぇよ。」 「照れてるくせに〜?ちゃんと弁当の礼も言いなよ?」 「言うに決まってんだろ。」 涼真と言い合っているうちに時間は過ぎ、俺たちは昼休み終了ギリギリにデスクへ戻った。

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