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第249話
終業時刻になり、城崎と二人で帰路に着く。
スーパーで食材を買い、手が触れるか触れないかの絶妙な距離感で家に帰った。
「先輩、ただいま。」
「ふっ…、おかえり。」
家の中に入ってすぐ、触れるだけのキスをする。
キスしたのに、城崎は少しムッとした顔をしていた。
「何で笑うんですか。」
「だって、一緒に帰ってきたのにただいまとおかえり分担されてるから(笑)」
「俺は先輩に『おかえり』って出迎えてもらうのが理想だったんだから、仕方ないじゃないですか。」
「帰り道それ聞いたから、やってあげたんだろ。」
「〜〜〜!!好き!!」
城崎がぎゅぅっと力強く俺を抱きしめる。
スーパーの帰り道、俺に『おかえり』を言って欲しいと、会話の流れでそう口にしていたのだ。
前に城崎が俺の犠牲になってサービス残業したときも、帰りを出迎えたらとても喜んでくれた。
どうやら城崎は、家で自分の帰りを待っててくれる恋人が欲しいらしい。
「俺、仕事辞める気はねぇよ?」
「辞めろなんて言ってません。」
「養いたいとか、毎日出迎えられたいとか言ってたじゃん。」
「そりゃ、いつか俺が先輩のこと満足させられるくらい稼げるようになって、先輩が家で俺の帰り待っててくれたらなぁ…とか思ったりしますけど。」
「思ってんじゃん。」
「でも先輩がお仕事も好きなのは知ってるので、それを奪おうとは思いませんよ。」
城崎は俺のことを一番に考えてくれてて、愛してくれている。
俺の意見は尊重してくれるし、だけど間違っていることはきちんと否定してくれる。
これって簡単そうで、意外と難しいことだと俺は思う。
「城崎、ありがとな。」
「?」
「俺のこと好きでいてくれて。」
そう伝えると、城崎はにこっと笑った。
「じゃあ先輩、一つおねだりしていいですか?」
「何?」
「今から一緒にシャワー浴びません?汗流したいです。」
「一人で入れば?」
「だからおねだりって言ったじゃないですか!」
もう夏は終わりに近づいてきたが、代謝のいい男がこの気温の中歩いたら、そこそこ汗はかくものだ。
俺も汗を流したいけど、恥ずかしいのと、あと少しの意地悪。
城崎は拗ねながらも、俺と一緒にシャワーを浴びることを諦めていない様子だ。
「先輩、入ろ?」
「え〜」
「俺、先輩とイチャイチャしたいです。」
「ちょっ…、汗かいてるからやめろって!」
「じゃあ入りましょう?お願い……。」
仔犬のような潤んだ瞳でおねだりされた上に、首に顔を埋めようとしてきたから慌てて止めると、結局その流れでシャワーに行くことになった。
決して嫌ではない。
恥ずかしいだけだ。
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