266 / 1069

第266話

遅めの昼飯を食べて、イチャイチャダラダラと午後を過ごし、夕飯まで作ってもらった。 あっという間に21時。 城崎といると時間が経つのが早く感じる。 「じゃあ…、名残惜しいけど帰りますね…。」 城崎が玄関に立って、寂しそうに扉に手をかけた。 「明日も休みだし、泊まっていけば?」 「そうしたいところなんですけど、明日朝から用事があって…。」 「そっか。じゃあ仕方ないな…。」 思わず引き止めるが、断られてしまった。 少し寂しいのが顔に出てしまったのか、城崎は俺の顔を引き寄せて唇を重ねる。 「行ってきます、綾人さん。」 「いってらっしゃい……?」 同棲してるわけじゃないのに。 今から城崎は家に帰るのに。 まるで少し出掛けてきますと言わんばかりの言い方。 「なんで?」 「だって、なんかこれに慣れちゃって。じゃあまた、とか、さよならとか、それよりもいってきますとか、ただいまの方が俺は好きです。」 「………俺も、好きかも。」 「それに、チューする口実にもなりますしね。」 「へっ?!」 「同棲したら約束ですよ、毎日いってきますのチューとただいまのチューは必須です。」 顔が熱い。 きっと俺の顔は真っ赤だ。 そんな俺を見て笑いながら、城崎は今度こそ玄関扉を開けた。 「じゃあ行ってきます。明後日職場で。」 「わかった。気をつけてな。」 「明日、夜電話してもいいですか?」 「ん。待ってる。」 扉が閉まると同時に、とても寂しくなった。 一週間ずっと城崎と一緒に居た。 人って欲張りな生き物で、一度慣れるとそれが当たり前になってしまうから。 だから、今まで一人が当たり前だったこの部屋に城崎がいないのが、すごく寂しい。 「俺って本当……」 城崎のこと、大好きだな。 だって、俺の指は自然に動いて、さっきまで目の前にいた城崎に電話しようとしてる。 重症だ、これは。 『綾人さん?』 俺からの電話はワンコールで出てくれる。 大好きな声が優しい音で俺の名前を紡ぐ。 もうそれだけで嬉しい。 『なんかありました?それとも俺、何か忘れてましたか?』 「違うよ。声、聞きたかっただけ。」 『ぷっ…。さっきまで一緒に居たじゃないですか。』 「うん。そうなんだけど…。」 本当、その通りだ。 さっきまで一緒に居たし、たくさん触れ合った。 「俺、おかしいのかも。」 『何がですか?』 「おまえのこと、好きすぎるんだと思う…」 『ふはっ!何それ、すっげぇ嬉しい。』 城崎は電話越しでもわかるくらい、嬉しそうな声で笑った。

ともだちにシェアしよう!