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第266話
遅めの昼飯を食べて、イチャイチャダラダラと午後を過ごし、夕飯まで作ってもらった。
あっという間に21時。
城崎といると時間が経つのが早く感じる。
「じゃあ…、名残惜しいけど帰りますね…。」
城崎が玄関に立って、寂しそうに扉に手をかけた。
「明日も休みだし、泊まっていけば?」
「そうしたいところなんですけど、明日朝から用事があって…。」
「そっか。じゃあ仕方ないな…。」
思わず引き止めるが、断られてしまった。
少し寂しいのが顔に出てしまったのか、城崎は俺の顔を引き寄せて唇を重ねる。
「行ってきます、綾人さん。」
「いってらっしゃい……?」
同棲してるわけじゃないのに。
今から城崎は家に帰るのに。
まるで少し出掛けてきますと言わんばかりの言い方。
「なんで?」
「だって、なんかこれに慣れちゃって。じゃあまた、とか、さよならとか、それよりもいってきますとか、ただいまの方が俺は好きです。」
「………俺も、好きかも。」
「それに、チューする口実にもなりますしね。」
「へっ?!」
「同棲したら約束ですよ、毎日いってきますのチューとただいまのチューは必須です。」
顔が熱い。
きっと俺の顔は真っ赤だ。
そんな俺を見て笑いながら、城崎は今度こそ玄関扉を開けた。
「じゃあ行ってきます。明後日職場で。」
「わかった。気をつけてな。」
「明日、夜電話してもいいですか?」
「ん。待ってる。」
扉が閉まると同時に、とても寂しくなった。
一週間ずっと城崎と一緒に居た。
人って欲張りな生き物で、一度慣れるとそれが当たり前になってしまうから。
だから、今まで一人が当たり前だったこの部屋に城崎がいないのが、すごく寂しい。
「俺って本当……」
城崎のこと、大好きだな。
だって、俺の指は自然に動いて、さっきまで目の前にいた城崎に電話しようとしてる。
重症だ、これは。
『綾人さん?』
俺からの電話はワンコールで出てくれる。
大好きな声が優しい音で俺の名前を紡ぐ。
もうそれだけで嬉しい。
『なんかありました?それとも俺、何か忘れてましたか?』
「違うよ。声、聞きたかっただけ。」
『ぷっ…。さっきまで一緒に居たじゃないですか。』
「うん。そうなんだけど…。」
本当、その通りだ。
さっきまで一緒に居たし、たくさん触れ合った。
「俺、おかしいのかも。」
『何がですか?』
「おまえのこと、好きすぎるんだと思う…」
『ふはっ!何それ、すっげぇ嬉しい。』
城崎は電話越しでもわかるくらい、嬉しそうな声で笑った。
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