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第278話

嗚呼、もう。 社会人8年目でこんな失態を犯すなんて…。 通勤ラッシュ外のため座れるくらい空いている電車の中、自己嫌悪に陥る。 城崎のこと好きだし、本当に大好きだし、気持ちいいことされるのは嫌いじゃないけど……。 でも仕事に支障をきたすのは社会人としてダメだと思う。 しかも俺は上司。 部下のダメなとこは叱ってやるべき立場にあるのに…。 「ダメすぎるだろ…、俺………」 「大丈夫ですか……?」 「えっ?」 座りながら頭を抱えていると、突然声をかけられて顔を上げる。 眉を八の字にして心配そうに俺を見つめる男性。 しかも相当可愛い。 声も男にしては少し高めだし、背も170cmあるかないかくらい。 細くて小柄だし、可愛がられそうな子だな…。 「あの……」 「あっ!え、えっと、すみません!大丈夫です!」 「本当?よかったぁ…。」 俺の言葉に安心して、天使のように可愛く笑う。 うわ。まじか。可愛い…。 「お隣いいですか?」 「は、はいっ!どうぞ…」 「ありがとうございます。」 たくさん空いている席はあるのに、わざわざ俺の隣に座った。 本当に可愛いな、この人。 男にもモテそう。 「あ、それ『あにまるず』のキーホルダーですよね?」 「え、あにまるず知ってるの?」 「はい!俺、ねこさんが好きだったんだけど当たらなかったんです。いいなぁ。」 城崎にもあまり話したことのない、俺がひっそりと好きなもの。 青年は俺の鍵に付けていたあにまるずのねこさんを見て、羨ましそうにそう言った。 『あにまるず』というのは、デフォルメ化された動物の日常を(えが)いた癒し系アニメだ。 最近世間でブームになっているけど、さすがに三十路(みそじ)の男が好きだなんて知られたら引かれそうだし、隠しているわけではないが城崎にもわざわざ好きとは伝えていない。 このねこさんキーホルダーも、最近ガチャガチャで当てて付けたばかりだから、城崎はまだ気づいてないはず。 「これ、あげようか?」 「えっ!いいんですか?」 「最近付けたばっかだし、そんな汚れてないと思う。俺が使ったのでよければ、だけど。」 「そんなの全然いいです!え、本当にもらってもいいんですか?」 「いいよ。君みたいな可愛い子が持ってる方がねこさんも喜ぶと思うし。」 「か、可愛いだなんて…、そんな……」 青年はカァッと顔を赤らめて首を振った。 リアクションまで可愛いのか。 城崎に合うのって、こういう可愛い男の子じゃないんだろうか。 なんて思ってしまったり…。 「あの、少しお時間ありますか?」 「え、あー……」 青年にそう言われ時計を見ると、時刻はもう12時。 半休を取っているが、昼休憩終わりの時間までには出社しないといけない。 「すみません。今から仕事で…。」 「ねこさんのお礼に、よかったらお茶でもと思ったんですけど…。残念……。」 青年はシュン…と悲しそうな顔をして俯いた。

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