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第279話

青年…、名前を知らないから天使くんと呼ぶことにする。 天使くんはねこさんをとても大事そうに握って見つめていた。 「ねこさんすごく人気なのに、ありがとうございます。本当に当たらなくて…。SNSで交換とか募集する勇気もないし…。」 「わかる。欲しいのに限って当たらないよね。」 「お兄さん、狙ってるのありました?俺、ねこさん以外当たったのでお譲りします!」 「いやいや、いいよ。本当に。」 天使くんはキラキラした目で俺を見た。 元々俺もねこさん推しだったけど、城崎の影響でいぬさん派に変わった。 あいつめちゃくちゃわんこっぽいし。いぬさん見てると、なんか城崎のこと思い出しちゃうんだよな。 天使くんの好意は嬉しいけど、もう会うこともないだろうし丁寧にお断りした。 「ねこさんのどこが好きなの?」 「え、えっと……。あの……、彼氏が初めてくれたプレゼントというか…。」 「彼氏?!」 俺が驚くと、天使くんはキョトンとした顔をしていた。 これだけ可愛けりゃあり得ない話ではないのだが、こんなにあっさり同性愛者とカミングアウトされるとは思いもしなかった。 「変……ですか?」 「いや、全然!全く変じゃないよ!!」 「初対面の人にいきなり恋人が同性だなんてぶっちゃけられたら、誰だってびっくりしますよね…。本当ごめんなさい。お兄さん、すごく話しやすくて、いいかなって思っちゃって…。」 天使くんはシュン…とした顔でそう言った。 こんな可愛い恋人がいたら、彼氏も気が気じゃないだろうな。 というか、もしも俺が彼氏なら、初対面の相手にこんな心開いてたら注意してしまいそうだし。 「本当に変じゃないし、偏見とかないから大丈夫だよ。」 「本当?よかったぁ…。俺ね、初めは男同士なんて…って思っちゃったんです。でも俺の彼氏、すごく俺のこと大事にしてくれて、周りにも普通に、俺のこと恋人だって紹介してくれて。だから、俺も胸張りたいなって思って。俺もすごく大好きだから。」 そう言った天使くんの顔は本当に恋する顔してて、すげぇ可愛くて、そして何よりかっこよかった。 俺は世間体気にして城崎とのこと隠してて、城崎は本当はどう思ってるんだろう? 城崎のこと、隠したいわけじゃない。 本当は俺の恋人だって、もっと周りに自慢したい。 「実は俺もさ、恋人、男なんだよね…。」 「えっ?!」 「今日こんな時間に出勤してるのも、俺が朝から腰砕けになったせいっていうか…。」 「嘘!えっ!本当に??」 この子ならいいかなー、なんて思ってつい口にした。 天使くんは顔を赤らめて、でもなんか嬉しそうに俺を見つめている。 普段ならこんなことぜってー言わねぇのに。 「えー、すごい!だからかなぁ?なんかお兄さん、すごく親近感あったっていうか!えー!わー!すごい!」 「ちょ、恥ずかしいから声のトーン下げて…!」 「あ、ごめんなさい。えへへ。なんか嬉しいなー。お兄さんともっとお話ししたかったなぁ。」 天使くんは小声で嬉しそうにそう言った。 俺ももっと話したい気持ちは山々だけど、もう会わないからと思っていきなりぶっちゃけてしまったし、恥ずかしくて顔も上げられない。 でも城崎との関係を肯定的に受け止めてもらえたのが、とても嬉しく感じた。 「また……、もしどこかで会えたら。そのときは連絡先交換しませんか?」 「今日は?ダメ?」 「恥ずかしすぎて顔見せられない…。だから、ご縁があれば…ね?」 「わかりました。絶対どこかでまた会えるって信じてます。」 タイミングよく会社の最寄駅に着き、天使くんに見送られながら駅の改札口へ続くエスカレーターへ向かった。 ニコニコ手を振っている天使くんは、最後まで可愛い天使だった。

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