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第281話
始業ぎりぎりにデスクに着くと、涼真はくつくつと笑っていた。
「おまえ他 人 事だからってなぁ…」
「いや、千紗ちゃん面白いよね(笑)」
「面白くねえーよ。」
言い合っていると、後ろから手が伸びてきた。
城崎だ。
珈琲を淹 れてくれたらしい。
「さっき大丈夫でした?」
「あー…、うん。消してもらったよ。」
「先輩いろんな人に目撃されてましたよ。あまりにも仲良く走ってたから、ヨリ戻したのかとか言われてましたけど…。」
城崎は面白くなさそうに、口先を尖らせている。
もしかして嫉妬?
なんだよ、可愛いな…。
「城崎、大丈夫だから。」
「わかってますよ。ただ面白くないだけ…。」
ここが会社じゃなかったら抱き締めてるのにな…。
なんて思いながら、グッと我慢する。
「珈琲、ありがと。」
「どういたしまして。午後から頑張ってくださいね。」
「ん。城崎もな。」
城崎がデスクに戻ったのを見て、俺もパソコンに向き合った。
午前休んだ分頑張らねぇと。
やる気を出したのに、隣からちょっかいが飛んでくる。
「なぁ、やっぱ俺には淹れてくんねーのな。」
「涼真の好みの味知らねぇんじゃねーの?」
「あー、なるほどな。おーい。ちゅんちゅん、珈琲淹れて。」
「えっ?!俺っすか?!」
涼真は通りすがったちゅんちゅんに声をかけて珈琲を淹れてもらっていた。
それがまた美味しくなかったようで、舌をベッと出して変な顔をしている。
ちゅんちゅんはそんな涼真を気にすることもなく、俺の隣に椅子を引っ張ってきた。
「今日も彼女さんとフィーバーすか?」
「ぶっ…!ちげぇよ、馬鹿!!」
「えー。皆さんとそうかなーって言ってたのにー。」
「普通に寝坊しただけだから…。」
図星だけど、同僚にそんな風に思われるの嫌すぎる。
つい顔が赤くなってしまったのか、涼真はめちゃくちゃ笑ってるし、ちゅんちゅんもなんか察したようだ。
「内緒にしときます。ね、柳津さん?」
「そうだな〜。まさか社会人8年目にもなって、寝坊なんてな〜?」
「「ぷっ…!!」」
は…、腹立つ……!!
特に涼真。次なんかネタあったら絶対に笑ってやる…。
言い返せなくてむくれるだけの俺に、助け舟が来た。
「先輩、ここ分からなくて…。今いいですか?」
「え。お、おう…。どれ?」
「柳津さん、ちゅんちゅん。仕事してくださいね。」
城崎に一蹴 されて、二人ともデスクに戻っていった。
ちょ…、顔近すぎて全然内容入ってこない。
まともな返事もできないまま、城崎は「ありがとうございました。」とデスクに戻っていった。
多分もともと分からないところなんてなくて、俺を助けるために来ただけらしい。
俺、いつも助けてもらってばっかりだな。
心の中で感謝しながら、仕事を再開した。
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