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第282話

定時で仕事を終え、荷物を整理する。 ほとんどの人が今日のノルマを終えているようだが、何人かは残業して帰るようだ。 「お疲れ様です。」 「望月くん、おつかれ〜。」 残業組に見送られながら職場を後にする。 城崎から『駅前で待ってます。』と連絡が入っていて、少し早足で駅まで向かう。 「あ、城崎!」 「お疲れ様です、先輩。」 「どっか飯行く?」 「先輩の家で、俺が何か作るでもいいですよ。」 これは……、お誘い? 最近城崎といる時間がどんどん増えてきて、感覚バグりそう。 一緒にいたいけど、一人の時間に慣れないと…だよなぁ。 「今日は外で食べない?」 「いいですよ。何にしましょう?調べます。」 心なしか城崎が少し悲しそうな顔した気がしたけど、気のせいかな? うーん、食べたいものか…。 城崎は基本なんでも作ってくれるから、城崎の作れないような食べもの…。 「あ!久々にハンバーガーとかどう?」 「いいですね。俺、美味しいとこ知ってます。」 「じゃ、そこ行こ!」 手を繋ぎそうになって、ふと気づく。 周りにいっぱい人いるんだった。 自然に手を繋げないって辛いな…。 天使くんなら人前でも手を繋いだりするんだろうか? 俺にはやっぱり、そこまでの勇気まだ持てない。 思いとどまって空を掴む手を、城崎は追いかけるようにギュッと握った。 「えっ…?城崎…??」 繋がれた手を見つめ、城崎を見上げる。 今俺、すごく困惑した顔してるんじゃないかな。 城崎は俺の顔を見てフッと笑って、撫でるように触れてから手を離した。 「先輩の手が寂しそうだったから。」 「………」 「違った?」 「違くない……。」 城崎って何でこんなに俺のことわかるんだろう? 多分城崎は周りにどんなふうに思われたって気にしないんだろうな。 いつもアクションを起こしてくれるのは城崎から。 特にこんな会社近くで知ってる人がいるかもしれない状況だと、俺は躊躇してしまう。 俺の手を繋いで、でもすぐに離したのはきっと俺のため。 ごめんな、城崎。 嫌な思いさせてるかもしれないのに、城崎の表情からは全然そんな感情読み取れない。 本当はどう思ってるんだよ…? 何度も考える。 俺は本当に城崎に見合った人間なのかって。 モヤモヤした気持ちで食べたハンバーガーは、めちゃくちゃ美味いはずなのに、何故か味を感じなかった。

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