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第284話

家に着いて、城崎はキッチンに向かった。 俺は鞄をリビングに置いて、ソファに座る。 「「……………。」」 すげぇ辛い。 同じ空間にいるのに、何ならさっきまで甘えたいとか言っていちゃつこうとしてたはずなのに。 俺のせいだよな? 俺がさっさと謝れば済む話…。 落ち込む俺の気持ちとは対照的に、つい顔を(ほころ)ばせてしまうような良い匂いがキッチンから漂ってきた。 俺がどう切り出すか頭を抱えていると、後ろから城崎に抱きしめられた。 「先輩、ごめんなさい。」 「えっ…?いや、違う。俺が悪くて…」 「俺、焦って。月曜日の帰りから先輩浮かない顔してるし、今日だってなんか俺の料理食べたくないのかなって…。」 月曜日…? あ、あの時か。 「月曜日はちょっと色々思うことがあって…。今日は城崎疲れてるだろうし負担になりたくないって思っただけだから!城崎の飯、めちゃくちゃ美味ぇし、好きだし。」 「本当…?」 「というか、城崎だってここ最近ずっと急いで帰るし、大丈夫しか言わないし、俺不安だったんだからな!?」 「あー、それは…。はい。すみませんでした。」 城崎は苦笑いしながら謝った。 振り返って目を合わせると、お互い自然と顔が近づいて、そっと唇が触れた。 「はぁ……、焦った。もうすぐ先輩の誕生日なのに、空気悪くてどうしようかと思った…。」 「ぷっ…!俺も。雰囲気悪いのに、家には来て料理作ってくれるんだ?って思ったけど。」 「だって先輩が30歳迎える時にそばにいないのは嫌だし。それにあんな状況で帰るとか無理。先輩と仲直りするまで離れるつもりなかったですよ。」 「ちゃんと話し合えばすぐ仲直りできんのにな。」 「そうですよ。というか、もし全面的に先輩が悪くても俺は許しますから。先輩と喧嘩なんて嫌。」 「馬鹿。ちゃんと謝るわ。」 頭を小突くと、城崎は痛がるふりをしながら笑っていた。 やっぱり城崎の隣って心地良い。 キッチンへ戻って行こうとする城崎の手を掴むと、城崎は不思議そうに俺を振り返った。 「好き。」 「え……?」 「大好きだよ、城崎。」 突然の告白に、城崎は間の抜けた声を出す。 伝えたかったんだもん。仕方ない。 数秒固まって、城崎はブワッと頬を赤く染めた。 「先輩……、可愛すぎ…………」 「え、おい?」 城崎はその場で床に崩れて、顔を手で覆った。 俺もしゃがんで目線を合わせようとすると、そのまま抱き寄せられ、耳元に顔を寄せられる。 「めちゃくちゃ愛し尽くしたいです…。」 「ん……、わ、わかったから…。」 「本当にわかってます?俺、今日は先輩の待て、聞けませんよ…?」 「……っ」 城崎の熱い息と低い声に、体がゾクッと期待に震えた。 さっきとは明らかに違う種類の静寂に、体も心もドキドキして休まらなかった。

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