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第296話

リビングへ行くと、トントンと心地良く何かを切っている音が耳に入る。 城崎は俺がリビングに来たことにすぐ気づき、不思議そうに首を傾げた。 「先輩?寝てなくていいの?」 「うん。なんか手伝おうか?」 「先輩の誕生日だし、ゆっくりしててくださいよ。」 城崎はそう言うが、ゆっくりしてても暇だし。 それに、手伝うっていうのは城崎のそばに居たいだけの口実というか…。 「一緒にする。」 「じゃあ、これ切っててくれますか?」 「わかった。」 城崎がさっきやっていたように、リズム良く野菜を切っていく。 隣を見ると、城崎はミンチに塩胡椒振ったり味付けして使い捨てのビニール手袋をはめた。 肉を()ねてるってことは…。 「ハンバーグ?」 「正解です。」 「やった!城崎の、ソースがマジで美味いから大好き。」 「ふふっ(笑)よかった。他に何か欲しいのありますか?」 「なんでも美味いから、城崎が決めてよ。」 「先輩の誕生日なのに?」 「うん。」 付け合わせとか考えるのそんなに得意じゃないし。 それなら料理が得意な城崎が考えた方が、ハンバーグに合った付け合わせになりそう。 切り終わった野菜を水洗いしてお皿に盛った。 「次何しよ?」 「もう向こうで座ってていいですよ。」 「んー。」 「先輩いると、キスしたくなっちゃうんで。」 「じゃあ、しよ?」 城崎の両手が塞がっているのをいいことに、俺は城崎の顔を両手で引き寄せ、唇を重ねて舌をねじ込んだ。 体格上城崎の方が上背(うわぜい)があるから、俺の口内へ城崎の唾液が流れ込んでくる。 リードを取っているのはこっちのはずなのに、城崎は余裕そうだ。 「ぷはっ…」 息が続かなくて唇を離し、口内に溜まった俺と城崎の唾液をごくんと飲み込む。 顔をじっと見られていると恥ずかしくて、城崎の背後に回って抱きついた。 「もー。先輩、そんな可愛いことしないでください。ハンバーグできないですよ?」 「それは困る…。」 諦めてキッチンを後にしようとすると、城崎が少し体を折って俺の唇に触れるだけのキスをした。 「あとで満足するまでキスしてあげますから。ね?」 「ん。」 恥ずかしくて頷くことしかできなくて、俺は熱った顔を見られないよう逃げるようにキッチンを後にした。

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