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第306話

「うわ、思ったより広い。」 自分に与えられた部屋を開けると、物がないこともあり広く感じる。 しかも寝室は別にあるからベッドで幅もとられないし。 何置こうかな。とりあえずデスクとパソコンと。 引越しで部屋も整理するし、この機会に仕事の書類の整理もしたいな。 てか、この部屋、ほぼ確実に仕事部屋になりそう。 城崎と家にいる間はリビングか寝室で二人で過ごすだろうし、よっぽど仕事が根詰まったときか、城崎が出張でいない時とかしか使わないだろうな…。 一人になりたい時間とかできるのかな? たしかに前に同棲していた時はそんな時間も欲しかった気がするけど…。 まぁ過ごしているうちにそれは分かるか。 今はとにかく城崎と一緒に居たいって気持ちが強いから、そんな時間が欲しいなんて微塵(みじん)も思わないし。 「そういえば……」 何もない自分の部屋を出て、隣の部屋の前に立つ。 城崎の部屋…。 いつでも入っていいとは言われたけど、居ない時に入るのはダメかな? でも俺に隠し事する奴じゃないと思うし…。 気になる……。 「お邪魔します…!」 理性より興味の方が勝ってしまい、俺は部屋の扉を開けた。 部屋の中は城崎の家をそのまま持ってきて小さくしたみたいな。 モノクロでまとめてあって、スタイリッシュ。 デスクとノートパソコン、タブレット。いくつか仕事用の本。 小説もよく読むと言っていたが、そういえば電子書籍がなんだって言ってたから、あのタブレットがそうなのかもしれない。 あとデスクには俺と作ったハーバリウム。 不要なものは一切なさそうな部屋に、俺との思い出の品を置いてくれているのはすごく嬉しい。 でも片付いてるデスク周りとは相反(あいはん)して、クローゼット近くの床は散らかっていた。 まだ片付けが終わっていないのだろうか? よく見るとアルバムっぽい…? もしかして学生時代の城崎が見れるかもなんてウキウキしながら開いてみると、中身に驚いて手を止めてしまった。 「何これ……」 アルバムには城崎らしいというか、1ページずつ丁寧に日付と場所を書いてファイリングしてある俺の写真がたくさんあった。 まだ城崎が入社してすぐの頃にあった新歓や去年の納涼会、社員旅行…。 よく教えていたから城崎と一緒に写ってる写真もあるけど、ほとんどが隠し撮りみたいな…。 え、いや…。 俺のこと好きすぎね…? アルバムは何ページにも及び、俺と付き合った頃のページで終了していた。 あんな格好良い男が、俺なんかに一目惚れなんて正直半信半疑なところがあったんだけど…。 本当だったんだ……。 「先輩、見ちゃったんだ?」 「っ?!!??!」 突然背後から話しかけられて大きく体を揺らす。 び、びびび、びっくりしたぁ…!! 「お、おかえり、城崎っ…」 「ただいま。先輩、チュー。」 「ん…っ」 おかえりのキスをして、さっきまで感じていたびっくりのドキドキから別のドキドキに変わる。 甘いキスをたっぷりされて俺がトロトロになったのを確認して、城崎は満足そうに唇を離した。

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