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第309話

城崎と同棲を始めて一週間が経った。 必要な荷物はもう(ほとん)ど新居に持ってきたし、今まで住んでいたマンションは今月末には完全に退居する予定だ。 「先輩、おはよ。」 「おはよう……」 寝ぼけ眼な俺に、城崎はおはようのキスをして朝ご飯を作りに寝室を出ていく。 まだ慣れなくて、城崎がいると休日だと錯覚してしまいそうになる。 リビングの方からベーコンのいい匂いが漂ってきて、なくなくベッドから降りる。 もう朝と夜は肌寒くなってきたので、朝ベッドから出る速さも比例するようにどんどん遅くなってきた。 「あ、先輩。ちょうどできましたよ。」 「ん〜…、ありがとう。」 「先に顔洗ってきます?」 「そうする……」 洗面所に行き、バシャバシャと水で顔を洗って目を覚ます。 冷たくて一気に目が覚めた。 洗面所にもコップに二つ歯ブラシが立てかけてあったり、なんか恋人っぽい。 いや、まぁ正真正銘恋人であることには違いないが。 「先輩、冷めちゃいますよ〜。」 「はーい。今行く〜。」 部屋着からシャツに着替え、ボタンを止めながら席に着いた。 ()れたての珈琲が前に置かれ、平日なのに少し贅沢なモーニングが並んでいる。 「忙しいのに悪いな。」 「全く苦じゃないのでいいですよ。あ、そう言えば今日出張のメンバー発表でしたっけ?」 「あー、そうだったっけ。」 「また先輩と一緒がいいなぁ。そもそも俺も先輩も行くか分かんないですけどね。」 テレビを付けてニュース番組を流しながら、他愛もない話をして朝ご飯を食べる。 そっか。そろそろ出張か。 城崎は選ばれそうだな。会社は若くて優秀な人材は育てたいだろうし。 「もし出張先が別だったら寂しい。俺行かないって言おうかなぁ。」 「駄目だろ。選ばれたらちゃんと行かなきゃ。」 「だって〜。」 「それだけおまえは期待されてるんだよ。」 「先輩のためなら頑張れるけどさぁ…。」 小学生のように口先を尖らせていじけている。 お互い仕事は好きだけど、出張に関しては離れてしまうのが難点だ。 まぁ一日二日くらい我慢しろって話なんだけど。 「とにかく仕事に背向けちゃ駄目だからな。」 「はぁ…、なんか憂鬱になってきた…。」 「社員旅行とか楽しみな方考えよう、な?」 「うん…。」 残りのトーストを口の中に放り込んで、城崎の頭をぽんぽんと撫でる。 そんな些細なことで城崎は嬉しそうに笑って、元気を取り戻した。

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