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第311話
タイムカードを切って会社を出る。
周りにバレないよう、城崎とは駅で合流している。
「お疲れ様。」
「もう……、本当に無理………。」
「心ここに在らずって感じだったもんな。」
あまり泣き言を言わない城崎が、今日は朝からずっとこの調子だ。
さすがに帰ったら思っ切り甘やかしてやりたい。
30分電車に揺られ、改札を通って外を二人で歩く。
「城崎……、帰ったら風呂一緒に入ろっか。」
「うん…。」
「…………シてもいいよ。」
「っ…!でも…、明日も仕事だし……。」
「城崎がモヤモヤなくなるまで付き合うから。」
風呂はほとんど毎日一緒に入ってるけど。
城崎は申し訳なさそうだけど、でも断ることもしないってことは俺の好意に甘えようとはしてくれているようだ。
家に入るなり、玄関でキスが始まる。
いつものただいまのキスなんかと違って、深くて濃厚なキス。
城崎の舌がにゅるりと俺の口内を動いて、俺は崩れないように必死に城崎にしがみ付く。
「先輩……、本当にいいの……?」
「ん…っ、い…いよ……。」
「俺、止まんないかもしんない…。今日本当に余裕ない…。格好悪いとこばっかり見せちゃうかも…。」
「バーカ。全部好きだから、全部ぶつけてきていいよ。」
「好きっ…、先輩、好き。大好き。」
キスしたまま靴を脱いで、脱がされた服がハラハラと床に落ちていく。
城崎のズボンはテントが張っていて、興奮してくれていることが嬉しい。
思わずそこに触れてしまったことをトリガーに、城崎は俺を射抜くような熱を瞳に宿したまま、俺のことを抱いた。
心が不安定な城崎は、なんだか子どもみたいだ。
俺のこと必死に求めて、離れないようにずっと手を握って、譫言 のように何度も「好き」と呟く。
城崎の不安を全部受け止めてやりたくて、意識を飛ばさないように必死になっていると、今日一番の大きな律動の波がきて弾け、終わりを告げた。
「先輩………」
「気持ちよかった…?」
「うん。……はぁ、ごめんなさい、本当に。」
「浮気とか嫉妬じゃねぇのに、そんな不安になるなんて思わなかった。」
「俺、先輩のこと好きすぎて頭おかしいんです。重くてごめんなさい…。」
「んーん。ちょっとくらい気持ち落ち着いた?」
「はい。出張頑張ります…。」
俺のことを抱きしめながら、仕方ないといった様子でそう言った。
もしどっちかが転勤とかなったら、どうなるんだろう?
仕事辞めるとか言い出しそうだな。
でも転勤は俺も耐えられなさそうだなぁ。
こんなの考えるだけ無駄だけど。
今は目の前のことで精一杯だ。
「応援してるからな。」
「はい…。」
「頑張れ、城崎。」
チュッと音を立ててキスすると、城崎は頬を赤く染めてはにかんだ。
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